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期待の効果 ピグマリオン効果とは?その活用の検討

ピグマリオン効果とは

「ピグマリオン効果」ということばを聞いたことがあるでしょうか。

ピグマリオン効果とは「心から相手に期待をしそれを表明すると、相手がその期待に応えてくれる」というもので、「ポジティブな提案や励ましが自尊心を高め、それにより得られたポジティブなモチベーションにより期待に応えようと努力する」という心理効果であるとされています。

ピグマリオンというのは、ギリシャ神話に登場する王様の名前です。
ピグマリオンは、理想の女性として彫刻した彫像を愛し、人間の女性になることを神に願いました。やがて彫像は生命を得て2人は結婚した、というストーリーが知られています。
このストーリーに由来し、ピグマリオン効果と呼称されたようです。

今回はCOVID-19感染疑いのある患者に対するこころのケアに、ピグマリオン効果を応用したという研究をご紹介します。

こころのケアとしてのピグマリオン効果の利用検討

COVID-19は身体的健康に深刻な脅威をもたらすだけでなく、患者や大衆に心理的な悪影響を及ぼすといわれています。特に、感染疑いにより隔離となった患者は、不安・抑うつ・恐怖といった否定的な感情に陥いると考えられます。その結果、医師の指示に従って正しく治療を受けることが難しくなったり、生活の質が低下してしまうことも予想されます。

このような場合、否定的な感情を緩和するためのこころのケアが必要とされます。こころのケアの一環として、ピグマリオン効果を応用できるのではないか、というのが今回ご紹介する研究の目的となっています。

研究では、COVID-19感染疑いがあるとされ病院に入院した患者を実験の対象者としています。
対象者を「一般的な心理ケアのみ行うグループ」と「一般的な心理ケアに加え、ピグマリオン効果に基づく心理ケアを追加したグループ」に分け、それぞれ入院中は、個別隔離病棟にて1日1回20~30分、心理カウンセラーの資格を持つ看護師によるケアを行いました。
退院後の自宅隔離では、電話やチャット、アプリケーションを介したやりとりを通じてフォローを継続しました。

一般的な心理ケアとしては、患者に対する慰めや、質疑応答などが行われ、ピグマリオン効果に基づくこころのケアとして、以下のようなことが実践されました。

  • COVID-19の最新情報や治療計画、隔離の目的について説明する

  • 患者が自分自身を守るよう指導する

  • 治癒の成功例を伝える

  • 患者の訴えに注意深く耳を傾け、患者が嫌な感情を発散できる雰囲気を作る

  • 患者の肩や背中を軽くたたくなど、目や身振り手振りで患者を励ます

  • 瞑想とリラクゼーションを続けるよう指導する

  • 感情を共有することを推奨する

  • 「よくやった!」と自分に言い聞かせるポジティブな「セルフトーク」などの自己動機付けの方法を指導する

ピグマリオン効果に基づくこころのケアにおいては、ケアを行う側が情報提供に加え身振り手振りといった行動も含めて励ましを行い「期待感」を与え、患者は自身の行動について振り返りを行うということがポイントとなります。

実験結果

ここからは、どのような実験結果が得られたのかをご紹介します。

まず、COVID-19感染疑いとして隔離された患者は、抑うつ、不安、内外への苛立ちといった否定的な心理状態となっており、特に抑うつについては患者全体のおよそ半数の患者が陥る問題となっていました。

そのような患者に対し、ピグマリオン効果に基づくこころのケアを加えて実施したことで、一般的な心理ケアのみの場合に比べ、否定的な心理状態が緩和していました。

このことから、ピグマリオン効果に基づくこころのケアは、抑うつ、不安、内外への苛立ちといった否定的な心理状態を、効果的に緩和するということが示唆されたのです。さらに、ピグマリオン効果に基づくこころのケアに対する満足度も高く、患者に快く受け入れられていたことも分かりました。

考察

期待感を抱いた患者は、はじめは受動的な努力を行いますが、努力の結果を把握し実感することで、今度は自発的に努力を行うようになります。そのことで自分自身のあり方を肯定する気持ちが高まり、自分の意志で自身の行動を制御し、さらに自身が良い状態であるよう目指す状態となっていきます

否定的な心理状態の緩和に用いられる「認知療法」において、生活のリズムを整え、ものごとの優先順位付けを行い、楽しめる活動ややりがいのある活動を増やしていくという「行動活性化」という療法があります。
実験で用いられたピグマリオン効果に基づくこころのケアにおける治療計画の説明や振り返りといったプロセスは、この行動活性化に相当するものだと考えられます。しかし、行動活性化療法は抑うつ等による倦怠感があるときにあえて活動的になることを勧めるものであるため、患者に受け入れられないこともあります。
「期待感」が加わったことで、多くの患者に肯定的に受け入れられたのかもしれません。

おわりに

ご紹介した実験ではCOVID-19の治療にかかわるものであったため、実践には専門性が必要とされましたが、ピグマリオン効果自体は他の分野においても幅広く応用されようとしています。
教育分野においては、学習成果が高まるといったことだけではなく、生活の質を向上させたり、社会的結束を導くのではないかとも考えられています。
私たちも会社や家庭において、無意識のうちにピグマリオン効果を活用していることがあるかもしれません。

参考文献

Cobos-Sanchiz, D., Perea-Rodriguez, M. J., Morón-Marchena, J. A., & Muñoz-Díaz, M. C. (2022). Positive adult education, learned helplessness and the pygmalion effect. International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(2), 778.

Zhang, S., Liu, Y., Song, S., Peng, S., & Xiong, M. (2022). The psychological nursing interventions based on Pygmalion effect could alleviate negative emotions of patients with suspected COVID-19 patients: a retrospective analysis. International Journal of General Medicine, 513-522.

本記事は、スマホアプリNEC Thanks Cardに掲載した内容を修正して転載したものです。

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