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感謝と負債感の関係

感謝は「他者から好意を受け取ることによって引き起こされるポジティブな感情」ですが、表裏一体となって生じる「負債感」という感情があるのをご存じでしょうか?
今回の記事では、負債感に関する研究についてご紹介し、それをふまえ感謝に際して意識したい事について記載します。

負債感とは何か

何らかの好意を受け取った際、受け手側は「感謝」と「負債感」を同時に生じるといわれています。
負債感とは、他者から好意を受け取り負債を返済する義務を感じるときに生じるネガティブな対人感情を指します。
ここでいう負債は金銭的な負債 (借金) ではなく、「お返しをしなくてはならない」といった義務感のことであり、負債感は相手が見返りを求めているかどうかには依存しない受け手側の感情を指します。負債感は人々にとってはストレスであり、避けたいと思う感情のひとつであると言えます。

負債感と社会的な距離に関する研究

感謝の気持ちと負債感について調査したとある研究で、韓国人学生とアメリカ人学生との間に結果の違いがみられました。韓国人学生の方がアメリカ人学生よりも負債感を多く生じたのです。この結果から、アジア圏などで見られるような相互依存性の高い社会は、アメリカのような独立性の高い社会よりも負債感を感じさせる可能性がより高いのではないかということが考えられます。
それらをふまえ、今回ご紹介する研究では、社会的な距離と感謝の気持ちや負債感の関係について検証する実験が行われました。

実験は中国人の中学生275人を対象として行われました。
まず、対象者は「健康への感謝グループ」「人への感謝グループ」「感謝なしグループ」にランダムで分けられました。そして、健康への感謝グループでは、自分自身の健康を振り返りそれに関する感謝の作文を行いました。人への感謝グループでは、自分にとって重要な1人を思い浮かべ感謝の作文を行いました。感謝なしグループでは、作文は行いませんでした。
次に、対象者はその時の気分を測定しました。気分は「幸せ・満足・誇らしい・感謝・悲しみ・怒り・負債感・恥・罪悪感」それぞれについて7段階で回答します。
最後に、社会的距離を測定しました。社会的距離の測定には、自分の友人、家族、地域、社会からの距離をどれだけ感じているのか測定する項目が含まれており、主観的な距離感を測ることができます。

実験の結果、気分測定のうち「負債感」について感謝グループ間でわずかに有意な差が見られ、人への感謝グループが最も高い値をしめしました。これは、人に対する感謝の気持ちを持っている人の方が負債感を感じたということを示します。

また、人への感謝グループは社会的距離に関わらず負債感を感じる一方、そのほかのグループは社会的距離が近くなるほど負債感が小さくなっていました。身近な人であれば「お返しする機会がそのうちくるだろう」といった感情から負債感が小さくなることが知られていますが、人への感謝グループではそのような結果にならなかったということです。
そして、いずれのグループにおいても、社会的距離が近いほど感謝の気持ちは高くなりました。これは、感謝する対象が近くにいると感じられるほど、感謝の気持ちが強くなるということです。

ここで注意しなくてはならないのが、実験対象が中学生であったこと、感謝に費やしたコストを考慮した評価になっていないという点です。
これまでの研究から、感謝については思春期であっても成人と同様の実験結果が得られることが分かっています。しかし、負債感についてはまだ明確ではありません。思春期の若者が「感謝が常に楽しいものではない」理由の一つとして、負債感をあげているという調査結果もあるそうです。この実験で思い浮かべた「重要な人」が誰であったかは明らかにされていませんが、例えば両親など「まだ自分の力では恩返しできないけどとても感謝している相手」が思い浮かべられており、成人に比べ負債感が高くなったという可能性が否定できません。

また、重要な人に対する感謝の作文というものは、健康への感謝の作文に比べ時間を多くかけているでしょう。自分の労力を多く費やしていることが、負債感に何らかの影響を与えた可能性も否定できません。
すなわち、この実験結果のみでは、一般的に人への感謝は負債感を多く感じさせるとは言い切れないということです。

感謝と負債感について意識したいこと

「負債感が生じてしまうなら身近な人に感謝しない方が良いのでは?」とお考えになる方もいらっしゃるでしょう。
もしそのように感じるようであれば、いちど感謝をお休みしたり頻度を落としてみるのもよいかもしれません。感謝の対象となる人に対し一方的に感謝を続けている状態であると、負債感がたまっていくような感覚になるでしょう。相手も感謝をしてくれれば「お互い様」という感覚になることができ、負債感が少し軽減されるかもしれませまたん。

参考文献

He, W., Qiu, J., Chen, Y., & Zhong, Y. (2022). Gratitude Intervention Evokes Indebtedness: Moderated by Perceived Social Distance. Frontiers in Psychology, 13, 824326.

本記事は、スマホアプリNEC Thanks Cardに掲載した内容を修正して転載したものです。


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