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ウェルビーイングを高めるためのキーワード【#1】関係編

現在、大きく注目を集めている「ウェルビーイング」ですが、私たちはウェルビーイングを高めるためにどのようなことができるでしょうか?

ウェルビーイング向上に関連する要因は、心理学や社会学、生理学、脳科学などの分野で研究がされています。カリフォルニア大学バークレー校のGreater Good Science Center(GGSC)は、WEB上でマガジンを公開しており、ウェルビーイングに関連した研究結果などをまとめています。

GGSCがまとめる情報などを参考に、今回は「他者との関わりにおけるウェルビーイングのキーワード」をピックアップしたので、ご紹介します。


感謝 / Gratitude

ウェルビーイングを高める要因として、最もよく研究されている一つが感謝です。感謝は、みなさんがご存じの通り、「人や自然などから恩恵や厚意を受けたことに対してありがたいと感じること、および、その気持ちを相手に伝えること」を意味します。

感謝の気持ちを感じ、相手に伝えることは、その人のウェルビーイングを高めることが報告されています。たとえば、「感謝の日記」を用いた研究では、毎日または毎週、感謝していることを3~5個記録することで、主観的ウェルビーイングが向上することが示されています。しかし、この効果は、日本をはじめとしたアジア諸国では、うまく再現されないことが報告されています。日本では、感謝の気持ちに加えて、「申し訳ない」という負債感情を感じやすいことが影響していると考えられます。

感謝を伝えることは、人間関係の強化にもつながります。感謝した人、感謝された人、さらには感謝を目撃した人も、感謝をした人・感謝された人と積極的に関わり、援助行動を促進することが報告されています。我々が職場を対象に行った研究では、アプリを使用して多くの感謝を送りあった職場チームほど、従業員同士の信頼が向上したことが明らかになっています。

さらに、感謝には免疫システムの強化や血圧の抑制、苦痛の軽減、睡眠の改善などの効果があることが報告されています。感謝は、幸福感や人間関係、身体的な健康など、広くウェルビーイングに影響を与える要因と言えます。

利他性 / Altruism

利他性は、「自分にコストやリスクがあったとしても、誰かのために行動をすること」を指します。

私たちが利他的な行動をすると、ウェルビーイングが高まることが多くの研究から明らかになっています。渡されたお金を自分のために使うか、他者のために使うかによって心理的影響を比較した研究では、他者のためにお金を使用した場合の方が幸福度は高まることが報告されています。

利他性の効果は、脳科学的・生理学的にも研究されています。利他的な行動をすることで、喜びや社会的つながり、信頼に関連する脳領域が活性化し、エンドルフィンの分泌が誘導されます。また、他人のためにお金を使うことは、血圧を下げる可能性が示されており、ボランティア活動をしている人は、痛みや疼きが少なく、身体全体の健康状態が良く、うつ病が少ない傾向にあります。

またウェルビーイングであるほど、利他的になるとも言われています。利他性とウェルビーイングは双方向に影響することで、ポジティブなサイクルが生まれると考えられます。

共感 / Empathy

共感は、「他者が感じたり考えたりしていることを感じ取り、想像する能力のこと」です。

研究では、共感は「感情的共感」と「認知的共感」に分類されます。感情的共感は、相手の感じていることを自分の感情に反映することを意味し、他者の恐怖や不安を察知してストレスを感じることなどを含みます。認知的共感は、他者の感情や考えを識別し、理解する能力を指します。

共感は、私たちが社会を形成して生活するために重要な能力です。他者の立場に立って考えることや、相手の気持ちを理解することは、集団が機能するうえで役に立ちます。たとえば、職場における研究では、上司の共感性が高いほど、部下は体調不調を起こしにくく、仕事における幸福感を感じやすいことが報告されています。

また共感性が高いことは、その人が利他的な行動をする要因になりえます。先述したように、利他性を発揮することは、ウェルビーイングの向上に繋がります。共感したからといって、困っている人を助けたいと思うとは限りませんが、利他的な行動の第一歩になることは多いです。

思いやり / Compassion

思いやりは、「他者の苦しみに直面した時に、その苦痛を和らげたいと思う感情」を指します。英語では「コンパッション (compassion)」として研究がされており、「慈悲」と訳されることもあります。

思いやりは、利他性や共感と混同されやすいですが、似て非なる概念です。共感は、一般的に他者の感情を感じ取る能力ですが、思いやりには「苦痛を和らげたい、助けてあげたい」という欲求が含まれます。利他的な行動は、思いやりによって促されることがありますが、常に思いやりによって突き動かされるわけではありません。

思いやりに関する研究は、まだ十分に進んでいるとは言えませんが、ウェルビーイングに良い影響を与えるという知見が集まってきています。たとえば、思いやりを高めるトレーニングをすると、主観的な幸福度が高まり、不安が減少することが報告されています。

思いやりは、職場にも良い影響を与えます。職場でより多くの思いやりを受けた従業員は、喜びや満足などのポジティブ感情をより多く感じ、ワーク・エンゲージメント(仕事への熱意)が高いことが示されています。思いやりのある職場文化は、燃え尽き症候群の減少、チームワークの向上、仕事に対する満足度の向上につながります。

許し / Forgiveness

心理学者たちは、許しとは、「自分を傷つけた人に対する恨みや復讐の感情を、相手が実際に許すに値するかどうかにかかわらず、意識的かつ意図的に解放する決断」と定義しています。

許すということは、自分に対する被害の深刻さを覆い隠したり否定したりすることではありません。許しとは、忘れることでも、犯罪を容認することでもありません。その代わり、許した人の心に平安をもたらし、怒りから解放します。そして、苦痛や怒りに支配されることなく、癒されて人生を歩むことができるようになります。

ウェルビーイングと許しの関係として、幸せな人ほど許しやすく、また他者を許すことで幸福感を得られるという研究結果があります。また、許しを育むセラピーに関する研究では、セラピーを受けた人は、受けていない人と比較して、抑うつ、不安、希望が大きく改善する効果あったことを報告しています。

逆に、許すことができず恨みを持ち続けることは、身体的な不健康につながる可能性があります。恨みを持ち続けると、血圧や心拍数が上昇し、免疫力は低下することが報告されています。

社会的つながり / Social Connection

社会的つながりは、「自分が集団に属しているという感覚や他の人々を身近に感じているという感覚」を指します。研究者たちは、社会的つながりは私たちの中核的な心理的欲求であり、人生に満足するために重要であることを示唆しています。

ウェルビーイングが非常に高い人々は、社交性が高く、密接な人間関係を持っている傾向にあります。社会的つながりだけで、幸せを保証することはできませんが、社会的つながりなしで幸せにはなりにくいのかもしれません。

社会的つながりは、健康にも良い影響があります。社会的なつながりが強いと、記憶力が良くなり、風邪をひきにくいという報告があります。これは高齢者にとって特に顕著で、社会的なつながりが活発な高齢者は、運動能力が高く、認知症のリスクが減り、幸福度も高いことが示されています。逆に、社会的に孤立した高齢者は、運動不足、喫煙、高血圧など健康を阻害する要因を持つ傾向にあります。

そして、社会的つながりは、ウェルビーイングのための他のキーワードとも密接な関係にあります。感謝、利他性、共感、思いやり、許しを育むことは、個人の幸福度を高めるだけでなく、家庭や職場などの人間関係に役立ち、より良好な社会的つながりへと通じていきます。

まとめ

今回は、学術的に研究がされている、他者との関係性のなかでウェルビーイングを高めるキーワードをご紹介しました。

私たちは社会的な生物であり、他者との関わりなしに生活することは困難です。家庭や友人関係、職場など、社会的集団のなかでウェルビーイングを見つけることは、人生全体のウェルビーイングを高めるために大きな役割を担うでしょう。もちろん、ウェルビーイングのあり方は十人十色なので、今回ご紹介した要素のなかから、自分自身に合うものを選び取っていただけたら良いと思います。

私たちのウェルビーイングに関連する要素は、他にもさまざまなものがあります。今後、他のキーワードもまとめていきますので、よろしければチェックしてみてください。

(筆者:菅原)

参考資料

  • Greater Good Science Center in Berkeley Univ., “Greater Good Magazine”,


  • 相川充. (2016). 『感謝するとwell-beingは高まるのか?』. モチベーション研究所報告書: annual report, (5), 54-67.

  • Klimecki, O. M., Leiberg, S., Lamm, C., & Singer, T. (2013). Functional neural plasticity and associated changes in positive affect after compassion training. Cerebral cortex, 23(7), 1552-1561.


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