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【論文紹介】共感性と感謝が向社会行動につながる -共感性の分類とその影響

みなさんは、まわりの人に対して、助けてあげることや思いやりのある行動をすることは多いでしょうか?

心理学分野では、このような他者のための自発的で意図的な行動を「向社会行動」と呼びます。

過去の研究から、向社会行動を取る傾向が高いことは、ウェルビーイング(幸福度)の高さや対人コミュニケーションの改善に影響するとされています。

では、向社会行動を取る背景には、どのような感情や心理的作用があるのでしょうか。今回は、共感性と感謝に焦点を当てた向社会行動に関する研究をご紹介したいと思います。

※本記事は、スマホアプリ NEC Thanks Card に掲載した内容を転載しています。2024年5月から6月にかけて、アプリ用に執筆した記事で毎日更新しています。


共感性の分類

心理学において、共感性は「他者の感情を認識し、その感情の意味を理解する能力」とされており、「認知的共感」「感情的共感」に分類されます。

認知的共感は、他者がどう感じているかを想像し、他者の視点を理解することによって精神状態を理解する能力を指します。認知的共感は、さらに「視点取得」「想像性」に分類されます。

感情的共感は、他者の感情や苦痛に対して、それらの感情反応を自分のものとして自動的に模倣することを指します。感情的共感は、さらに「共感的関心」「個人的苦痛」に分類されます。

共感は、感謝を通じて向社会行動につながる

Pang et al. (2022) の研究では、共感性と感謝、向社会行動の関係を調べるために、大学生を対象にアンケート調査が行われました。アンケート調査では、以下の3つの要素が測定されました。

  • 向社会性:どのくらい他者のための行動をとる傾向があるかを測定

  • 共感性:「視点取得」「想像性」「共感的関心」「個人的苦痛」の観点からどれくらい他者に共感する傾向があるか測定

  • 特性感謝:他者や物事に対してどのくらい感謝をする傾向があるか測定

このアンケート結果について、因果分析と呼ばれる統計解析から、共感や感謝の傾向が向社会行動にどのような影響を与えるか分析したところ、共感性のうち「視点取得」「想像性」「共感的関心」は感謝の傾向を媒介して向社会行動性を高めることがわかりました。

図. 共感性と向社会性の関係 Pang et al. (2022) より筆者作成

つまり、他者の視点から物事を理解しようとすること、状況を想像して同調すること、他者へ思いやりや同情を感じることは、他者へ感謝する気持ちにつながり、結果として他者のための行動が増加する可能性があります。

他者に共感し、感謝してみる

共感性が高まると感謝の気持ちが増し、向社会性が増加するという研究結果をご紹介しました。

向社会的な行動を取ることは、ウェルビーイングに対して肯定的な影響があることも報告されています。自らのウェルビーイングを高めようとする際、共感や感謝の気持ちを意識してみることは、一つの良い方法かもしれません。

家族や同僚、友人など、相手の視点に立ち、相手の状況を想像したり、相手に対して思いやりの気持ちを持つことで、感謝の気持ちが湧いてきます。

そして、その感謝の気持ちから相手のために行動したときには、お互いの関係性はさらに良くなり、自分自身のウェルビーイングにもつながっていくかもしれません。

(筆者:菅原)

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参考文献

  • Pang Y, Song C and Ma C (2022) Effect of Different Types of Empathy on Prosocial Behavior: Gratitude as Mediator. Front. Psychol. 13:768827. doi: 10.3389/fpsyg.2022.768827