感謝はウェルビーイングを高めるか? -日本人の感謝感情と負債感情
アメリカの研究では、「1日5個の感謝を記録することで、主観的ウェルビーイングが高まる」という実験結果が報告されています (Emmons & McCullough, 2003)。
一方で、日本人に対して同様の実験を行っても、ウェルビーイングが高まるという結果が得られないということが報告されています (相川ら, 2013)。
では、いったいなぜ、日本では感謝によってウェルビーイングが高まらないのでしょうか。
ウェルビーイング向上を邪魔する「申し訳なさ」
日本人において感謝でウェルビーイングが高まらない理由の一つとして、「負債感情」の存在が挙げられています。
負債感情とは、相手にしてもらった行動や払ったコストに対して「申し訳ない」「すまない」と感じる返済義務的な感情のことです。
日本人とアメリカ人の感謝感情と負債感情の関係について調べると、日本人の方が感謝感情と負債感情の相関が強いことが明らかにされています (Hitokoto, 2013)。
つまり、アメリカ人と比較して、日本人は「ありがとう」と感じると同時に「申し訳ない」と感じやすい傾向にあるということです。
さらに、日本人に対する同様の感謝を記録する実験において、「感謝感情」と「負債感情」を分けて分析すると、「負債感情を多く感じている人」はウェルビーイングが低下しており、「負債感情をあまり感じていない人」はウェルビーイングが向上したという結果が示されています。
つまり、日本人でも「申し訳ない」よりも「ありがとう」という感情を多くすることで、ウェルビーイングは高まるということです。
嬉しさ・ありがたさを意識して感謝してみよう
みなさんも誰かに感謝をするとき、「申し訳なかったな」「すまなかったな」という気持ちになってしまうことがあるのではないでしょうか。
「申し訳ない」「すまない」と感じる感情は必ずしも悪いものではありませんが、ぜひ感謝を贈るときは、相手にしてもらったことに対して「嬉しい」「ありがたい」という感情を意識して感謝を贈ってみてください。
そうすることで、あなたのウェルビーイングも高まることが期待できます。
(筆者:菅原)
参考文献
相川充 (2016). 感謝すると well-being は高まるのか? . 東京未来大学モチベーション研究所フォーラム, Annual Report 2016, 54-67.
Emmons, R. A. & McCullough, M. E. (2003). Counting blessings versus burdens: An experimental investigation of gratitude and subjective wellbeing in daily life. Journal of Personality and Social Psychology, 84, 377-389.
相川充・矢田さゆり・吉野優香 (2013). 感謝を数えること が主観的ウェルビーイングに及ぼす効果についての 介入実験. 東京学芸大学紀要総合教育科学系Ⅰ,64, 125-138.
Hitokoto, H. (2013). Relationship between Gratitude and Indebtedness after receipt of aid among Japanese, American, and Australian students. Poster presentation at the 2013 International Association for Cross-Cultural Psychology Regional Conference, Los Angeles, CA.