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人間関係からみた感謝の性質と効果

今回は、感謝は新たな人間関係だけではなく、既存の人間関係についてもポジティブな影響を及ぼすということをご紹介します。

「find-remind-and-bind理論(Algoe, 2008)」という、感謝の効果を人と人との関係性に着目した、感謝研究のなかで有名な理論があります。
かつてのの感謝研究では、感謝とは、感謝する側がされる側から何らかの便益を得た際にうまれる感情であるという考えが主流でした、それは便益の「交換関係」であり、資源分配という経済学的な視点から語られていたということです。

また、感謝の効果は、見知らぬ人や知り合いと新たな人間関係を築くときに最も役に立つと考えられており、既存の人間関係に対する効果が確認されていませんでした。
Algoeらは、交換関係という考えを否定はせずとも、より人と人との関係性に着目し、親密な既存の関係に対しても検討すべきではないかと考えました。

感謝の感情 = 便益 + 応答性(自分に対する思いやり)

まずAlgoeらは、感謝は交換関係以外でも成り立つことを確認する実験を行いました。
その実験は、大学のクラブ活動に加入した新入生とそれを迎え入れる上級生が対象となりました。感謝する側の参加者に対し、相手がしてくれたことについて便益(相手の費やしたお金や時間)と応答性(相手がどれだけ自分を理解し気にかけてくれているか)を評価させました。その結果、便益よりも応答性の方が感謝との関連が深いということが分かりました。

感謝される側について、便益に対する返済を期待するのではなく、相手の必要に応じて便益を提供するということがポイントとなります。便益が大きすぎると「心理的負債感」というネガティブ感情が働くということも分かっているからです。関係性に応じた適切な便益を考えてあげることも、思いやりのひとつでしょう。

つまり、こういった場合は、便益の「交換関係」というだけではなく、「共同体関係」にあるとも言えます。共同体関係において、人は安心感や充実感を感じるということが分かっています。それは家族や恋人などで強く見られますが、初対面の人との共同作業などでも成立するということも分かっています。

もとの関係性がどうあれ、感謝には対人関係を強化する力がある

つぎにAlgoeらは、既に親密な関係性を築いている恋人同士を対象にした実験を行いました。
実験では、同棲しているパートナーに対し、いつも以上に多くの感謝をするようにさせました。その結果、感謝された側について、パートナーとのつながりや関係の満足度が高められました。
これはすなわち、既に親密で思いやりのある関係を築いていても感謝の効果が表れるということです。それは、継続的な関係を築くための「ブースター効果」であると言えます。

find-remind-and-bind理論

ご紹介した2つの結果をもとに、「find-remind-and-bind理論」が説明されます。

感謝は、以下に寄与する機能を持ち、人間関係の形成・保持・発展を促進する。
find:将来的に質の高い人間関係を築いていくことのできるパートナーを発見する
remind:現在自分と良好な関係にあるパートナーを再認識する
bind:他者との絆を強める

ご紹介したとおり、この理論のもととなった実験では、「新たな関係性を築こうとしている人たち」、「既に親密な関係にある人たち」が対象でした。
この理論をさらに「既存の緩やかな関係性にある人達」に拡張するための実験も行われています。ここでいう緩やかな関係性とは、家族や恋人同士といった強い絆ではないが、顔見知りであり協力して何らかの作業に取り組むような関係(例えば職場の同僚など)を指します。その実験では、職場の同僚のような関係性にあっても感謝の効果は表れています

参考文献

Algoe, S. B., Haidt, J., & Gable, S. L. (2008). Beyond reciprocity: gratitude and relationships in everyday life. Emotion, 8(3), 425.

Algoe, S. B. (2012). Find, remind, and bind: The functions of gratitude in everyday relationships. Social and personality psychology compass, 6(6), 455-469.

本記事は、スマホアプリNEC Thanks Cardに掲載した内容を修正して転載したものです。