【論文紹介】感謝は脅威を弱め、挑戦心を高める -生理学的反応から見る感謝の効果
あなたは難しいタスクをしなければならないとき、「やってやろう!」と挑戦心に燃えるか、「失敗したらどうしよう…」と恐怖や脅威を感じてしまうか、どちらが多いでしょうか?
どうせならば、挑戦心をもって取り組めると、気持ちも結果も良い方向に向かいそうですね。
今回は、そんな精神的にストレスのかかるタスクを行うときに、感謝にはどのような効果があるのか、生理学的な分析から検証した研究をご紹介しようと思います。
血圧のパターンから、挑戦意識と脅威意識を評価できる
まずこの研究の背景に、私たちがタスクなどに向かうときの挑戦意識や脅威意識は、血圧のパターンから評価することができるという先行研究があります。
血圧は、心拍出量 (CO) × 全末梢血管抵抗 (TPR) で計算されます。このCOとTPRのパターンを測定することで、その人が挑戦的な心理状態なのか、驚異的な心理状態なのか評価することができます。
とりあえず、ここでは難しいことは気にせず、血圧のパターンを測定することで挑戦や脅威の状態がわかる、ということだけ覚えていただけたら大丈夫です。
感謝はタスクへの心理をどう変えるか
Gu et al. (2022) では、同じ寮に住んでいる大学生を対象に以下のような実験しています。
まず実験参加者でランダムなペアをつくり、感謝群と統制群に分けます。感謝群のうち片方には相手への感謝を話題にするように指定し、感謝群のもう片方と統制群の人には特に指定をせず、ペアで会話をしてもらいます。
会話をしたあとに、ペアでストレスがかかる共同作業と個人作業をしてもらいます。この作業中に、血圧(正確にはCOとTPR)を測定し、それぞれの参加者が作業中にどのような心理状態(挑戦または脅威)であったのか評価しました。
その結果、共同作業時には統制群では脅威反応が見られましたが、感謝群では脅威反応は見られませんでした。また個別作業時には、どちらも挑戦反応が見られたものの、感謝群のほうが統制群よりも大きな挑戦反応が見られました。
このようにチームメイトに対して感謝をすることは、ストレスのかかるタスクを行うという状況において、共同作業では脅威を弱め、個人作業では挑戦を高める効果があると言えそうです。
そして、感謝の効果が血圧のパターンという身体的な変化として見られたことも、この研究のおもしろいポイントの一つです。
感謝で挑戦的なチーム文化を
今回ご紹介した研究では、同じ寮に住む大学生同士が実験の対象でしたが、同様の感謝の効果は職場でもある程度見られると思われます。
この研究者も、家族や恋人ほど親密ではなく、まったくの他人よりは親密である、職場のようなゆるやかな関係性における感謝の効果を検証することを目的の一つとしています。
チームの中で感謝を贈り合う文化ができれば、困難な業務においても挑戦心をもって、モチベーション高く取り組めるチームになるかもしれません。
ぜひみなさんの職場でも感謝を贈りあって、挑戦できるチーム作りをしてみてください。
(筆者:菅原)
参考文献
Gu, Y., Ocampo, J. M., Algoe, S. B., & Oveis, C. (2022). Gratitude expressions improve teammates' cardiovascular stress responses. Journal of experimental psychology. General, 151(12), 3281–3291. https://doi.org/10.1037/xge0001238
Behnke, M., & Kaczmarek, L. D. (2018). Successful performance and cardiovascular markers of challenge and threat: A meta-analysis. International journal of psychophysiology : official journal of the International Organization of Psychophysiology, 130, 73–79. https://doi.org/10.1016/j.ijpsycho.2018.04.007