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【論文紹介】エピソードを記録してウェルビーイングに -エピソード記録が、欲求充足・感謝・セルフコンパッションに繋がる

近年、国内外で非常に注目されるウェルビーイングですが、WHOでは「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた(well-being)状態にあること」と言及されています。

なかでも、精神的なウェルビーイングは「幸福」や「充実」などと捉えられており、ポジティブ心理学を中心にウェルビーイング高める方法の研究がされています。

本記事では、エピソードを記録することを通して、ウェルビーイングの向上にアプローチした研究をご紹介します。

※本記事は、スマホアプリ NEC Thanks Card に掲載した内容を転載しています。2024年5月から6月にかけて、アプリ用に執筆した記事で毎日更新しています。

ポジティブなエピソードを記録する

Moè (2022) では、以下のウェルビーイング関連要素に着目して、検証を行っています。

  • 欲求満足 (need satisfaction) と欲求不満 (need frustration)

  • 自己慈愛 (self-compassion) と自己卑下 (self-derogation)

  • 感情再評価 (emotion reappraisal) と感情抑制 (emotion suppression)

  • 感謝の気質 (grateful disposition)

これらの要素は、個人のウェルビーイングの向上あるいは低下に関連することが報告されています。

Moè (2022) は、大学生120名を対象に7週間にわたって、1週間を振り返ってエピソードを3つ記録してもらいました。

記録するエピソードの内容は、以下のうち一つが振り分けられます。

  • 感謝:誰かに感謝を感じたエピソードを3つ書く。(具体的に、どんなことがあったのか、その人とどんな関係があるのかなど)

  • 自己肯定:自分の強みを発揮したエピソードを3つ書く。(具体的に、何が起きたのか、誰と一緒にいたのかなど)

  • 目標達成:自分が達成した目標を3つ書く。(その目標は、自分にとってどのように重要なのか、何をして、何が起こったのかなど)

  • 有意義なこと:自分にとって有意義だったことを3つ書く。(具体的に、何が起こったのか、誰と一緒にいたのか、何をしたのか、自分にとってどのように重要なのかなど)

7週間のエピソード記録の前後でアンケート結果を比較すると、「感謝」「自己肯定」「目標達成」「有意義なこと」を記録したすべてのグループで、欲求満足、自己慈愛、感謝の気質が増加し、自己卑下、感情抑制が減少しました。

つまり、欲求が満たされた感覚になり、自分を貶めたり感情を抑え込んだりせずに、自分を大切にでき、まわりに感謝する気持ちが高まったということが言えます。

さらに興味深いポイントとして、この効果は記録の実践終了から1か月後も持続していました。特に、自己慈愛と感情再評価は終了時よりも増加し、欲求不満と自己卑下は減少していました。

具体的に思い出し、記録する

Moè (2022) の研究結果から、「感謝」「自己肯定」「目標達成」「有意義なこと」などのエピソードを具体的に思い出して、記録することは、私たちのウェルビーイングにポジティブな効果が期待できそうです。

みなさんも、毎週、感謝や強みを発揮できたことなど、意識的に振り返る時間を取ってみてはいかがでしょうか。

(筆者:菅原)

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参考文献

  • Moè A. (2022). Does the Weekly Practice of Recalling and Elaborating Episodes Raise Well-Being in University Students?. Journal of happiness studies, 23(7), 3389–3406. https://doi.org/10.1007/s10902-022-00547-w