【論文紹介】感謝を「思い出すこと」と「伝えること」-感謝を思い出して満足度、伝えて親密度を高める
感謝をすることが、私たちの感情や心理状態、行動などにさまざまな影響を与えることは、いくつかの記事で紹介してきました。
本記事では、感謝を「思い出すこと」と「伝えること」を分類して影響を検証した研究をご紹介します。
感謝を「思い出す」・「伝える」
感謝をすることは、相手との人間関係を良くしたり、モチベーションや挑戦心を高めたり、ウェルビーイング(幸福感)を高めたりなどの効果が、さまざまな研究から示されつつあります。
しかし、「感謝をする」ということについて詳しく考えてみると、
感謝を「思い出すこと」
感謝を「伝えること」
の2つに分けて考えることができます。
これまでの多くの感謝研究では、「感謝の手紙を書いて相手の前で読む」「感謝を日記に記録する」「相手に感謝をするように意識して生活する」などのさまざまな感謝の方法が取られていますが、感謝を「思い出すこと」と「伝えること」の影響が明確に区別されず検証されていました。
これでは感謝を心の中で思い浮かべることに効果があるのか、あるいは感謝を相手に伝えるということに効果があるのかが分かりません。
研究:手紙を使った感謝の実験
Walsh et al. (2022) では、アメリカの大学生とその親を対象に実験を行いました。学生は「感謝の手紙を書いて親に共有する」「感謝の手紙を書きいて親には共有しない」「毎日の活動を手紙に書いて親に共有する」「毎日の活動を書いて親には共有しない」の4つのグループに割り当てられました。
また感謝の状態や気分・感情、満足度などを測定するアンケート実施し、学生は「実験前」「手紙記入後」「親への共有後(または非共有後)」の3度回答しました。
まずは感謝を思い出すことの効果について調べるために、「感謝の手紙」を書いた2グループと「毎日の活動の手紙」を書いた2グループの学生たちのアンケート結果について分析・比較しました。
その結果、感謝の手紙を書いた学生は、毎日の活動を手紙に書いた学生よりも、感謝の状態や気分、そして満足感が増加する傾向にありました。つまり、心の中で感謝していることについて思い浮かべることは、その人の感謝の気持ちや感謝の感じやすさを高め、その瞬間の気分や人生に対する満足感を高める可能性があります。
では次に感謝を伝えることの効果を検証するために、「感謝の手紙を親に共有した」グループとそれ以外の3グループを比較した結果についても見てみましょう。
"感謝の手紙"を親に伝えた学生は、その他の学生よりも、感謝の状態と相手との親密感が増加した傾向にありました。つまり、感謝を相手に伝えることは感謝の気持ちや感じやすさを高め、さらに感謝した相手との人間関係の親密感も高める可能性があります。
整理すると、感謝を「思い出すこと」と「伝えること」にはそれぞれ以下のような効果があることが示唆されました。
感謝を思い出すこと:感謝の状態(感謝の気持ちや感じやすさ)、気分、満足度を高める
感謝を伝えること :感謝の状態、相手との親密感を高める
感謝日記をつけよう・感謝を伝えてみよう
みなさんもぜひ感謝を日々記録してみましょう。感謝日記をつけるために感謝を思い出すことで、あなたの気分や満足感が高まるかもしれません。
そして、相手に感謝を伝えられるときには、感謝を伝えてみましょう。直接でもチャットでも良いと思います。感謝を伝えることで、感謝を思い出す効果に加えて、人間関係もより強化されていきます。
感謝を思い出すこと、感謝を伝えること。ぜひ状況に合わせて意識してみてください。
(筆者:菅原)
参考文献
Walsh, L. C., Regan, A., & Lyubomirsky, S. (2022). The role of actors, targets, and witnesses: Examining gratitude exchanges in a social context. The Journal of Positive Psychology, 17(2), 233–249. https://doi.org/10.1080/17439760.2021.1991449