【研究紹介】愛情ホルモン「オキシトシン」の効果 -オキシトシンと向社会行動・感謝・ウェルビーイングの関係
みなさんは「オキシトシン」という神経伝達物質をご存知でしょうか?
オキシトシンは、相手とのスキンシップや思いやり、信頼の感情などと関連していることから、"愛情ホルモン" や "信頼ホルモン" などと呼ばれています。感謝の気持ちを示したり、感謝を受け取った際には、脳からオキシトシンが分泌されること報告されています。
今回は、オキシトシンの分泌が幸福感や感謝の気持ち、向社会的な行動にどのような関係があるかを検証した研究についてご紹介したいと思います。
ビデオを用いたオキシトシンの誘導
この研究では、カリフォルニア州に住む18~99歳の計103名が実験に参加しました。実験参加者は、アンケートの回答、ビデオの視聴、ビデオ視聴前後の血液採取(オキシトシンの測定)、寄付の選択などを行いました。アンケートでは、ウェルビーイング(人生満足度)や特性感謝(感謝の感じやすさ)、過去一年間の向社会的な行動などが調査されました。
視聴したビデオは、脳腫瘍で死期が迫った息子に対する父親の心情を描いたもので、先行研究で一定のオキシトシン分泌効果があると示されたものです。ビデオを視聴した参加者は、今回の実験参加の謝礼金の一部をビデオで見た脳腫瘍の子どもがいる小児科に寄付することができると説明されました。
オキシトシンと向社会的な行動
実験の結果、ビデオを視聴した前後でオキシトシンが増加している人ほど、その後の寄付金額が多い傾向が見られました。またオキシトシンの変化と過去一年間の向社会的な行動(金銭・物品の寄付、ボランティア活動)にも正の相関があることも示されました。
つまり、「オキシトシンが高まりやすいこと」と「誰かのために行動を取ること」は結びついていると考えられます。
オキシトシンと感謝・ウェルビーイング
「オキシトシンと感謝」「オキシトシンとウェルビーイング」などの関係も見ていきましょう。
ビデオを視聴した時のオキシトシン増加が大きかった人ほど、特性感謝(感謝の感じやすさ)が高い傾向が実験結果から示されました。つまり、「オキシトシンの高まりやすさ」と「感謝の感じさすさ」には肯定的な関係があると考えられます。
また、ウェルビーイング(人生満足度)についても同様の傾向が見られました。オキシトシンの変化とウェルビーイングには正の相関があり、オキシトシンが高まりやすい人ほど、人生に満足している傾向があると言えます。(あるいは人生に満足している人ほど、オキシトシンが高まりやすい)
まとめ
これらの実験結果を整理すると、「オキシトシンの高まりやすさ」は「向社会的な行動」「感謝の感じやすさ」「ウェルビーイング」などとポジティブな関係がある可能性が明らかになりました。
感謝やウェルビーイング関するこれまでの研究では、「感謝をする人ほどウェルビーイングが高い」「感謝を感じやすい人ほど向社会的な行動を取る傾向にある」「向社会的な行動を取る人ほどウェルビーイングが高い」などの知見が得られています。これらの「感謝」「ウェルビーイング」「向社会行動」の関係の背景に、「オキシトシン」が影響しているかもしれません。
感謝を示すことや感謝を受け取ることは、オキシトシンの分泌を促すことが報告されています。日々のなかで意識的に感謝をすることで、オキシトシンの分泌が高まり、職場などでの向社会的な行動の活性化やウェルビーイングの向上につながるかもしれません。
(筆者:菅原)
参考文献
Zak, P. J., Curry, B., Owen, T., & Barraza, J. A. (2022). Oxytocin Release Increases With Age and Is Associated With Life Satisfaction and Prosocial Behaviors. Frontiers in behavioral neuroscience, 16, 846234. https://doi.org/10.3389/fnbeh.2022.846234