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【論文紹介】「意味ある仕事」を測定するWAMI

はじめに

みなさんは働く上で何を重要視しているでしょうか。“勤務時間に対し十分な給与が得られる”、“休暇がとりやすい”、“希望した場所で働ける”などの「働きやすさ」はもちろんのこと、自分の仕事に対して感じる“やりがい”や“誇り”といった「働きがい」も重要に感じるのではないでしょうか。

ワーク・エンゲージメントの文脈で紹介されることの多い『仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)』では、「仕事の資源」と「個人の資源」がワーク・エンゲージメントを高め、ポジティブなアウトカムにつながると説明されています。仕事の資源には、働きやすさに関連する要素、働きがいに関連する要素がそれぞれ含まれており、ワーク・エンゲージメントのためにも、従業員の働きがいを高めることが課題の一つとなっています。

厚生労働省の「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」でも、働きがいが高い従業員の方が意欲や勤務継続意向が高いということが報告されています。

図1. 働きがい、働きやすさと従業員の意欲と定着の関係(「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」より筆者作成)

さらに、大学生の就職活動に関する調査(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ, 2024)によると、内定受諾の最終的な決め手として“自分のやりたい仕事ができる”、“育成に力を入れている”、“入社後のキャリアを具体的にイメージできる”といった、働きやすさ+αの項目が増加傾向にあるようです。

こういった要素は、言い換えると「自分の仕事に意味を感じる」ことなのではないでしょうか。

今回は、働きがいに関連する研究として、「意味ある仕事」の尺度である「WAMI」についてご紹介していきます。


「意味ある仕事」を測定する尺度 WAMI

ここからは、「意味ある仕事」に関する論文(Steger, M. F., Dik, B. J., & Duffy, R. D. ,2012)の内容をご紹介します。

意味のある仕事(Meaningful Work)とは、単に給料を稼ぐため、もしくは時間をつぶすためではなく、意味があり肯定的な価値を持つ仕事のことを指します(Rosso, Dekas, and Wrzeniewski, 2010)。
“自分は意味のある仕事をしている”と思っている人の方が仕事をより重要なものと捉える(Harpaz & Fu, 2002)、といった報告があることから、意味のある仕事は企業や組織が考慮すべき事項の一つであると認識されています。
さらに、幸福感との関連も報告されており(Arnold, Turner, Barling, Kelloway, & McKee, 2007)、従業員側としても重要な事項であることがわかります。

意味ある仕事に関連する研究は以前から存在していました。
『職務特性モデル(Hackman and Oldham, 1976)』では、従業員のやる気を高める職務特性として「スキル多様性」、「タスク完結性」、「タスク重要性」、「自律性」、「フィードバック」などが挙げられますが、意味ある仕事はそれらに影響する要素として捉えられています。
そのため、職務特性モデルに関する研究の一環として、意味ある仕事の研究が行われることがありました。しかし、意味ある仕事そのものに焦点を当てた研究が見られず、尺度があったとしても概念的に不安定なものでした。そのため、Stegerらは改めて意味ある仕事の概念を整理し、The Work as Meaning Inventory(WAMI)を開発したのです。

Stegerらは、以下のように意味ある仕事の概念を整理し、WAMIの項目を設定しました。

表1. 意味ある仕事の3つの構成要素(筆者作成)

「仕事におけるポジティブな意味」は、自分の仕事の意義を見出せているかといったことを問います。「仕事による意味生成」は、意味ある仕事が自分自身や周囲の世界に対する理解を深め、自己成長を促進するといった研究(Rosso, Dekas, and Wrzeniewski, 2010)に基づき設定されました。「大義への動機づけ」は、自分の仕事が対して広範囲な影響を与えるものである方が有意義に感じるという(Rosso, Dekas, and Wrzeniewski, 2010)という考えを反映しています。

WAMIは「仕事におけるポジティブな意味」4項目、「仕事による意味生成」3項目、「大義への動機づけ」3 項目で構成されています。項目を日本語に機械翻訳したものを以下に掲載します(日本語版も開発されていますが、項目が一部異なるため今回は原著の尺度を掲載しました)。

WAMI(Stegerらの原著を機械翻訳)

Stegerらは、WAMIの弁別性や妥当性を確認するために、WAMIと仕事に関する望ましい事項(組織市民行動、キャリア・コミットメント、組織コミットメント、職務満足度、内発的職務動機)および望ましくない事項(欠勤日数、離職の意思、外発的職務動機)、さらに幸福度(人生の意味、人生満足度;SWLS)、心理的苦痛(不安、敵意、抑うつ)との関係を確認するための調査を行いました。
調査は欧米の大規模大学の職員から募集され、370名(平均44.6歳、)が対象となり、Web上でアンケートに回答しました。
以下の表2に相関分析の結果を掲載します。

表2. WAMIと関連する項目や尺度との相関分析の結果(参考文献のTable2より相筆者作成)(数値は相関係数、*p<.05, **p<.01, ***p<.001)

WAMI合計と仕事に関する望ましい事項の相関を見ると、キャリア・コミットメント、組織コミットメント、職務満足度との中程度の関係が見られます。幸福度については、意味保有および人生満足度と中程度の相関が見られます。望ましくない事項および心理的苦痛については、弱くはありますが負の相関が見られます。

内発的職務動機に対し、仕事による意味生成が他の下位尺度やWAMI合計よりも強い相関が見られたことや、仕事におけるポジティブな意味、大義への動機づけ、WAMI合計が意味探求と弱くはあるものの負の相関となったことは、Stegerらの仮説とは異なる結果でした。これは、WAMIが独自の意味や動機づけの要素を捉えているためであろうと考察されています。

次に、WAMIが職務満足度、欠勤日数、人生満足度の予測因子となるのか、階層的回帰分析が行われました。それぞれ、既存研究で以下の予測因子によって説明されることが明らかになっているため、これらに加えWAMIが予測因子として加わるか確認したのです。

職務満足度 - 離職意思、組織コミットメント、天職
欠勤日数 - 離職意思、組織コミットメント、天職、職務満足度
人生満足度 – 人生の意味、天職、職務満足度

予測因子の「天職」については、自分の仕事が天職(自分の性質にぴったり合った仕事)であると認識しているかという指標です。自分の仕事が意義あるものと認識することは、天職である仕事の重要な特徴である(Dik & Duffy, 2009)とされています。

分析の結果、職務満足度、欠勤日数、人生満足度のいずれの分析結果においてもWAMIはStep2で予測因子として加わりました。すなわち、意味ある仕事は職務満足度、欠勤日数、人生満足度を予測する要素の一つであることが分かったのです。表3に階層的回帰分析の結果のうち、職務満足度との分析結果を代表して示します。

表3. 職務満足度を予測する階層的回帰分析の結果(参考文献のTable5より筆者作成)
(**p<.01, ***p<.001)

この研究により、意味ある仕事の構成要素が改めて整理されました。さらに、意味ある仕事と職務満足度などとの関係が確認され、従業員が仕事に意味を感じることは、組織や企業にとっても重要事項であることが確認されました。

おわりに

今回は「働きがい」に関連する研究として「意味ある仕事」の尺度をご紹介しました。本文ではご紹介しませんでしたが、日本語の尺度として「日本語版モジュール式仕事の意味尺度(ME-Work)」(浦田&島井, 2024)というものがあります。自分あるいは組織や会社の仕事が「意味あるもの」と認識されているか、あるいは社員の離職率や欠勤が気になった際に、こういった心理尺度を用いて測定することで、状態を把握するのもよいかもしれません。

(執筆者:丸山)

私たちの研究について
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/rd/thema/well-being/index.html

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参考文献

厚生労働省. (2019). 令和元年版労働経済の分析-人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-.

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ. (2023). 2024年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査.
https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/0000000421/

厚生労働省. 働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書.
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/shokuba_kaizen.html

Steger, M. F., Dik, B. J., & Duffy, R. D. (2012). Measuring meaningful work: The work and meaning inventory (WAMI). Journal of career Assessment, 20(3), 322-337.

Rosso, B. D., Dekas, K. H., & Wrzesniewski, A. (2010). On the meaning of work: A theoretical integration and review. Research in organizational behavior, 30, 91-127.

Arnold, K. A., Turner, N., Barling, J., Kelloway, E. K., & McKee, M. C. (2007). Transformational leadership and psychological well-being: the mediating role of meaningful work. Journal of occupational health psychology, 12(3), 193.

Dik, B. J., & Duffy, R. D. (2009). Calling and vocation at work: Definitions and prospects for research and practice. The counseling psychologist, 37(3), 424-450.

浦田悠. (2021). 意味ある仕事と個人・ジョブ・社会・組織レベルの要因との関連についての予備的検討. Works Discussion Paper, 42, 1-12.

浦田悠, & 島井哲志. (2024). 日本語版モジュール式仕事の意味尺度 (ME-Work) の開発. パーソナリティ研究, 32(3), 134-137.