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ウェルビーイングとはいったい何なのか?注目される背景と意味に迫る

現在、政府や企業などさまざまな場面で「Well-being (ウェルビーイング)」が注目されつつあります。Well-being(ウェルビーイング)とは、Well(良い、善い)とBeing(状態、あり方)が組み合わされた言葉で、「よい状態」「よいあり方」を意味します。ウェルビーイングは「健康」「幸福」「福祉」などと訳されることも多く、意味を捉えにくくなっています。

今回は、ウェルビーイングの意味や注目される背景、学術的な理論などをご紹介します。

ウェルビーイングが注目される背景

ウェルビーイングが注目されるようになった背景はさまざま考えることができますが、主な背景として以下のようなことが挙げられます。

経済の豊かさの限界感

経済学は「最大多数の最大幸福」を最終目的とした学問ですが、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏の研究によれば、経済的な豊かさは一定程度以上になると幸せを感じにくくなります。

世界銀行によると、世界の貧困に苦しむ人々は減少しており、世界全体として経済的に豊かな人々が増えてきています。カーネマン氏の研究結果と合わせると、世界の人々は幸せを感じにくくなってきていると考えられます。

そのため、近年、代表的な経済指標であるGDP(国内総生産)が必ずしも幸福を表さないこと、経済的豊かさと心理的豊かさが必ずしも一致しないということが意識されるようになってきました。実際、経済協力開発機構(OECD)では10年間に及ぶ世界の幸福(ウェルビーイング)の測定を基に、「Beyond GDP」(2018)を出版しています。

SDGsにおける言及

SDGs (Sustainable Development Goals; 持続的な開発目標) の目標3「すべての人に健康と福祉を (Good Health and Well-being)」のなかでWell-beingという言葉が使用されています。このSDGsの目標3は、主に先進国では当たり前の医療・保健・福祉サービスを開発国でも受けられるようにすることを目指したものです。「医療」は病気を治療すること、「保健」は健康を守り保つこと、「福祉(ウェルビーイング)」は最低限幸せに生存することを指します。

日本ではSDGsの認知度が非常に高いですが、「福祉」と訳されているため、英語版SDGsを見ないとウェルビーイングとの関連性には気づきにくいかもしれません。

日本産業界の諸問題

日本産業界では、過労死や自殺率、人口減少や生産性、エンゲージメントの低さなど、さまざまな問題が言及されてきました。そのため、メンタルヘルスの改善や健康経営、働き方改革、エンゲージメント経営、人的資本経営など注目されており、これらを包括する概念として、ウェルビーイングは捉えられつつあります。

一方で、多くの概念を包括しているため、ウェルビーイングの定義はあいまいになっており、人によって意味が変わってしまっています。

ウェルビーイングとはいったい何なのか?

健康としてのウェルビーイング

ウェルビーイングという言葉が初めて使われた公的文書は、1946年の世界保健機構(World Health Organization; WHO)憲章の前文です。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会仮訳)

「病気ではない状態」や「身体的に問題がない状態」を指す言葉として「健康(health)」が使われるのに対して、WHOがその対象領域を広げるために定義に使われたのがウェルビーイング(well-being)でした。身体的・精神的・社会的に満たされた状態を指す広義の健康を意味する言葉として、「ウェルビーイング」は使われています。

ウェルビーイングに似た単語として、「ウェルネス (wellness)」があります。現在、GWI(Global Wellness Institute)では、ウェルネスを次のように定義しています。

The Global Wellness Institute defines wellness as the active pursuit of activities, choices and lifestyles that lead to a state of holistic health.
グローバル・ウェルネス・インスティテュートは、ウェルネスを「全体的な健康状態をもたらす活動、選択、ライフスタイルを積極的に追求すること」と定義している。

GWIによれば、不健康から健康に至るまでの活動が医療であるのに対し、不健康からウェルビーイングな状態に至るまでの活動をウェルネスと呼びます。この定義からは、ウェルビーイングは「状態」を意味するのに対して、ウェルネスは「活動」を意味する単語であると言えそうです。

幸福としてのウェルビーイング

ユングやフロイトによって始まった心理学は、主に精神疾患の治療を目的として人間の心を研究してきました。これに対し、マーティン・セリグマン博士が精神疾患の無い健常者がより充実するための学問として、ポジティブ心理学は広がりました。

ポジティブ心理学の目的は「より充実した人生」や「より良い生き方」を探求することです。しかし、ポジティブ心理学は、高揚感や一時的な幸福感(ハピネス)を研究する学問とよく混同されます。このよう感情は、アルコールや薬物でも得られるため、ポジティブ心理学の目的には沿いません。そこで、セリグマン教授は、幸福を表す言葉として「ハピネス」ではなく「ウェルビーイング」を用いています。ポジティブ心理学では、「ハピネス = 一時的幸福」「ウェルビーイング = 持続的幸福」と明確に分けられています。

ポジティブ心理学におけるウェルビーイングの代表的な定義は、セリグマン教授が自らの知見に基づきウェルビーイングを5つの要素にまとめたPERMA理論です。PERMAとは、「Positive Emotions; ポジティブ感情」「Engagement; エンゲージメント」「Relationship; 他者との関係」「Meaning; 人生の意義・意味」「Accomplishment; 達成感」の5つの要素の頭文字を取った言葉です。これらの5つの要素を最大化することが「持続的幸福 (Flourishing)」、つまり人生における長期的なウェルビーイングに繋がるとされています。


PERMAの5つの要素

福祉としてのウェルビーイング

WHO憲章前文では「各国政府には自国民の健康に対する責任があり、その責任を果たすためには、十分な健康対策と社会的施策を行わなければなりません」と要求しており、同前文の「社会的に満たされた状態(social well-being)」とは、狭義には生活困難者の生活保障を、広義には全国民の生活問題の解決を目指す取り組みである社会福祉(social welfare)のことを意味すると考えられます。

しかし、ウェルフェア(welfare)には「すべての人々に最低限の幸福と社会的援助を提供する」という意味があるため、最低限を超えて「より良い暮らしを提供する」という意味で、社会のウェルビーイング(well-being)という用語が用いられているようです。

経済協力開発機構(OECD)が、社会的幸福度を国際比較するために開発した「より良い暮らし指標(Your Better Life Index ; BLI)」は、物質的生活条件と生活の質(Quality of Life ; QoL)の観点から開発されており、「福祉」の意味でのウェルビーイングを測定する指標と言えるでしょう。

BLIは、住宅・所得・雇用・社会的つながり・教育・環境・市民参画・健康・主観的幸福・安全・ワークライフバランスの11項目で構成されています。社会的つながり・健康・主観的幸福・ワークライフバランスの4項目は回答者の自己評価による指標ですが、住宅・所得・雇用・教育・環境・市民参画・安全の7項目は客観的な統計データ(例:住居費、可処分所得、就業率、高校修了者の割合、大気汚染、投票率、殺人件数割合など)に基づいています。

Better Life Index の11項目

まとめ

Well-being (ウェルビーイング) とは、良い状態や良い在り方を意味し、「健康」「幸福」「福祉」などを包括した概念です。広義の健康を表す「ウェルネス」や、広義の福祉を表す「ウェルフェア」といった言葉もありますが、現状ではこれらも含めて「ウェルビーイング」という言葉が使われているようです。

どの定義のウェルビーイングにおいても、「悪くない」(マイナス~ゼロ)だけでなく、「より良い」(ゼロ~プラス)を含む点が共通しています。
「健康」「幸福」「福祉」など、どのような捉え方をしたとしても「より良い状態」「より良いあり方」に向かうという観点が「ウェルビーイング (well-being)」には含まれています。

経済的な要因や社会的な要請などから、ウェルビーイングは国内外で注目されています。ウェルビーイングに関連する学術研究も増えており、政府・企業などを中心としたウェルビーイングを高めるための実践も活発化しつつあります。

わたしたちは今後とも、ウェルビーイングに関連する役に立つ情報をまとめていきますので、よろしければまたご覧ください!

参考文献

  1. 前野隆司, 前野マドカ. 『ウェルビーイング』. 日本経済新聞出版, 2022.

  2. 公益社団法人日本WHO協会. 「世界保健機構 (WHO) 憲章とは」. https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/ (参照2023-07-21)

  3. Global Wellness Institute, "What is Wellness?". https://globalwellnessinstitute.org/what-is-wellness/ (参照2023-08-07).

  4. マーティン・セリグマン, 宇野カオリ (監訳). 『ポジティブ心理学の挑戦 “幸福”から”持続的幸福”へ』. ディスカヴァー・トゥエンティワン, 2014.

  5. OECD Better Life Index. https://www.oecdbetterlifeindex.org/


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