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感謝の効果は本当にあるのか?

今回はポジティブ心理学の祖であるセリグマン博士が行った、著名な感謝研究についてご紹介します。

ポジティブ心理学と感謝研究

研究についてご説明する前に、感謝研究の歴史について簡単にご紹介させてください。

現在、感謝に関する研究は”ポジティブ心理学”という分野の一環で行われています。
ポジティブ心理学とは、アメリカの心理学会会長であったマーティン・E・P・セリグマン博士によって1998年に創設された学問であり、人間の幸福やそれをもたらす要因についての研究を行う分野です。

ポジティブ心理学の研究では、ポジティブ心理学介入を行う実証実験が多く見られます。
ポジティブ心理学介入とは、ポジティブな感情を強化するような行動や習慣について、その有無や程度について調整してやることを指します。例えば、「誰かに感謝する内容の日記を一週間毎日書きましょう。」といったように、被験者のポジティブ感情(=感謝)を強化する方法と頻度を調整し、その行動前後の心理状態を比較する、といったことを行います。

感謝に着目したポジティブ心理学介入は、学問が立ち上がる前から散逸的に行われていました。
今回ご紹介する研究は、ポジティブ心理学の創設後にセリグマン博士らが「これまで行われてきたポジティブ感情に着目した介入には本当に効果があるのか?」を再検証するもので、いくつかの介入実験を行うという内容です。

検証された介入方法

検証対象としていくつかの介入が選ばれました。その中からいくつかピックアップして概要をご紹介します。

感謝の手紙
「特にお世話になったがきちんとお礼を言えていない人」に感謝の手紙を書き、直接届ける。

Three Good Things
その日上手く行ったこととその理由を3つ毎日書き出す。(1週間続ける)

ベストな状態のあなた
自分が最も輝いていた時のことを振り返り書き出す。そのなかで、自分の強みについて振り返りを行う。(1週間続ける)

上記3つの介入はいずれもポジティブな感情を強化する介入です。それらと比較するために以下の介入も行われました。

初めのころの記憶
毎晩、思い出せる限り初めの頃の記憶について書き出す。(1週間続ける)

“覚えている限り昔のの記憶について書き出す”という行動も、何か効果がありそうなもっともらしい介入ですが、ポジティブ感情にアプローチしているとは言えないため、今回は比較用の介入とされました。

介入効果については、介入1週間後に幸福度と抑うつ状態を測定し、その変化を確認します。また、測定は介入を行った6か月後まで定期的に行われました。

介入の効果

全ての介入方法について、幸福感の向上や抑うつ症状の軽減が見られました。ただし、その効果にはそれぞれ程度や特徴がありました。それぞれの効果についてご紹介していきます。

感謝の手紙については、1か月の間、幸福感を向上し抑うつ状態を軽減しました。それらのポジティブな効果は、他の介入に比べ非常に強いものでした。しかし、3か月後には効果が落ち込み、介入前の状態より悪化しました。すなわち、感謝の手紙は大きなポジティブ効果が得られる即効性のある介入ではありますが、継続しないとその効果が維持できないということです。

Three Good Thingsについては、6か月の間、幸福感を向上し抑うつ状態を軽減しました。その効果は感謝の手紙に比べると小さいものの、6か月後も効果が落ち込むことはありませんでした。感謝の手紙と異なり、個人で継続できる介入であったため、意識の高い被験者が自主的に継続していたことが一因となっていそうです。

ベストな状態のあなた初めの頃の記憶については、1週間後の調査でのみ幸福感の向上や抑うつ症状の軽減が見られました。すなわち、効果は一過性のものであったということです。これらについては、そもそも被験者に「より良くなりたい」という動機付けがあったことや、一定の孤立状態には効果があったものと見られています。

効果が持続した介入、一過性のものであった介入と分かれましたが、ポジティブ心理学が確立する以前からある介入にも、ポジティブな改善効果があったことが分かりました。こういった介入について、この研究では複合的に行うことが望ましいのではないかと述べています。また、被験者とセラピストとの関係性により、さらに効果が高まるのではないかといった可能性についても言及しています。

ポジティブ心理学介入は「補うもの」

本日ご紹介した論文には、以下のようなことが書かれています。

これまでの心理学におけるトークセラピーにおいては、「自分の悩みを話し、それに立ち向かい克服することが有益である。」という暗黙の前提がありました。しかし、ポジティブ心理学介入はそうではなく、練習によって向上でき、楽しく、自己維持が可能なスキルを日常生活に取り入れることで、補っていくものです。

今回ご紹介した介入や、感謝は、あくまでポジティブ感情を強化する手段やツールのひとつでしかありません。色々と試していただき、ご自身やチームで楽しく継続できる方法を見つけていくことが必要でしょう。時間がかかるかもしれませんが、ぜひ見つけ出してください。

参考文献

Seligman, M. E., Steen, T. A., Park, N., & Peterson, C. (2005). Positive psychology progress: empirical validation of interventions. American psychologist, 60(5), 410.

本記事は、スマホアプリNEC Thanks Cardに掲載した内容を修正して転載したものです。