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【論文紹介】感謝することで協力できる -感謝を用いた囚人のジレンマ実験

「囚人のジレンマ」というものをご存じでしょうか?

簡単にいえば、お互い協力する方が協力しないよりもよい結果になることが分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなるジレンマを指します。

このようなジレンマによって、協力しにくい状況のなかで「感謝を伝える」ことが協力関係にどのような影響を与えるか検証した研究をご紹介したいと思います。

※本記事は、スマホアプリ NEC Thanks Card に掲載した内容を転載しています。2024年5月から6月にかけて、アプリ用に執筆した記事で毎日更新しています。


囚人のジレンマ実験

こちらの研究では、囚人のジレンマ実験として、じゃんけんを用いた実験が行われました。実験参加者である大学生は、感謝群と統制群に分けられ、実験の主旨を知る”実験協力者”と「グー」か「パー」しか出せないじゃんけんを16回行いました。

じゃんけんの結果によって、以下の表のとおりにポイントが得られ、ポイントに応じて報酬が得られるという実験内容でした。

表:じゃんけん結果の得点表(お互いにグーを出すパターンを「協力行動」と呼ぶ)

感謝群では、実験参加者がはじめてグーを出したとき、つまり「協力行動」をとったときに、実験協力者は「グーを出してくれてありがとうございます」と、笑顔で感謝を伝えました。一方で、統制群では実験参加者がグーを出しても、特に何も伝えませんでした。

「グーを出してくれてありがとうございます」と笑顔で感謝を伝えることには、以下のような効果が期待できます。

ありがとうと言う(言語スキル)
感謝される側の向社会行動を強化・促進させる効果がある(Grant & Gino, 2010)

感謝した理由を言う(言語スキル)
他者の社会的迷惑行為抑制させる効果がある(油尾・吉田, 2012)
※社会的迷惑行為とは、行為者が自己の欲求充足を第一に考えることによって、結果として他者に不快な感情を生起させることです。

笑顔を示す(非言語スキル)
他者からの協力行動を引き出す効果がある(Scharlemann, Eckel, Kacelnik, &Wilson, 2001)

実験の結果、協力行動を取ったとき(グーを出したとき)に感謝を伝えられた感謝群の参加者は、統制群と比較して、協力行動を取る割合が高かったことが示されました。

つまり、このようなジレンマ的な状況にあっても、感謝を伝えることで協力関係を築くことができたと言えます。

心理的な効果も…!

さらに、上記の実験後には、「互恵意識」と「対人魅力」を測定するアンケート調査も実施されました。

「互恵意識」では、実験参加者がじゃんけんの相手である実験協力者と互いに協力することをポジティブに捉えていたかが測定されました。また「対人魅力」では、実験参加者がじゃんけんの相手である実験協力者に対して、「友達になりたいと思ったか」「好感を持ったか」など魅力に感じたかが測定されました。

その結果、感謝を伝えられた実験参加者(感謝群)の方が「互恵意識」や「対人魅力」のスコアも高いという結果が得られました。

ジレンマ的な状況にある2人の間であっても、感謝を伝えることでお互いに支え合い、関係性を発展できる可能性が、この研究結果から見出されました。

感謝で協力関係を広げてみよう!

私たちの身近な場面でも、一緒に仕事をする仲間同士や近所に住む人々の間など、それぞれの利益や楽さを優先してしまって、なかなか協力行動に至らないことはないでしょうか。

そんなときこそ、感謝を伝えることで協力関係をつくっていけるかもしれません!

ぜひ感謝のもつ力を上手く活用して、みんなで支え合える関係の輪を広げていってください!

(筆者:丸山・菅原)

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 研究開発 | NECソリューションイノベータ (nec-solutioninnovators.co.jp)

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参考文献

  • 酒井智弘, & 相川充. (2021). 感謝表出スキルの実行がジレンマ状況にいる感謝される側に及ぼす効果. 社会心理学研究, 36(3), 65-75.