【論文紹介】感謝の気持ちと自然環境 -感謝の気持ちが環境保護意識に繋がる?
近年、環境保護や持続可能性について語られることが非常に多くなってきました。これからの世界を考えるにあたり、私たちが環境や自然とどのような関係を築くかは、一つの重要な視点と言えます。
私たちの自然環境に対する意識を考えるなかで、「感謝の気持ち」がどう影響を与えるのか、ということに着目した研究があるので、ご紹介いたします。
自然とのつながりの意識と自己超越的な感情としての感謝
私たちの自然や環境保護へ意識を高めるには、どのようなことが必要でしょう?
専門家の間では、その方法一つとして「自然とのつながりの意識」を高めることが挙げられています。
「自分の生命は自然との関わりの中で存在している」「自分は自然の一部である」というような自然とのつながりの意識を強く持つ人は、より自然や環境に対して強い意識や関心をもって行動するとされています。
そして、他人や自然との関係のなかで感じる感謝や畏敬の念、尊敬、感動などのポジティブな感情は、自然とのつながりの意識を高める可能性があります。
Chen et al. (2022) では、感謝の気持ちを高めることが、自然とのつながりの感情を高めることを通して、環境保護への意識につながるという仮説について検証しています。
感謝の気持ちは、環境保護活動の意識につながる
Chen et al. (2022) は、中国の大学生を対象として、あるエピソードを読んだ後にアンケートに答えてもらう形で実験を実施しました。
実験の参加者は、感謝エピソード群と娯楽エピソード群、コントロール群の3つに分けられました。
感謝エピソード群では、少年がおばあさんに助けられ、その後、少年が恩返しをするというような感謝の気持ちが想起されるエピソードを読みました。
娯楽エピソード群では単におもしろさや楽しさを感じるようなジョーク話のエピソードが、コントロール群では特にポジティブな感情が湧かない退屈なエピソードが与えられました。
エピソードを読んだ後、参加者はそのときの感情や自然とのつながりの意識、環境保護活動への意識などについて測定するアンケートに回答しました。
その結果、感謝エピソードを読んだ集団は他の条件と比べて、感謝の気持ちやその他の関係性の中で感じられるポジティブ感情(感動、賞賛、尊敬、畏敬の念など)が高いことが示されました。
また、感謝の気持ちが自然とのつながりの意識や環境保護活動の意識にどう影響を与えるか検証するために、因果関係を明らかにする分析を行いました。結果、下図のように、感謝の気持ちは「関係性におけるポジティブ感情」「自然とのつながり」の意識を介して、環境保護活動への意識につながることが示されました。
感謝の気持ちを高めることは、他人や自然との関係をポジティブに捉えることにつながります。その結果、自然との関係の中に自分があるというような自然とのつながりの意識になり、環境保護への意識が高まる可能性があるということです。
自然とのつながりの意識を持つことは、自然保護活動への意識が高まること以外にも良い効果があるとされています。メンタルヘルスに良い影響を与え、うつなどの精神疾患の発生率が下がり、個人の成長や自律性、人生の目的といったウェルビーイングに関連した要素にもポジティブな影響を与えるという知見があります。
まとめ
感謝は、個人や対人関係のなかでどのような効果を発揮するかに着目されることが多いですが、感謝の気持ちは社会や自然環境などもっと大きな範囲にも影響を与える可能性があります。
これからの社会環境を考える上で、感謝の気持ちは非常に大きな役割を担うかもしれません。
感謝の気持ちは、すぐに高められるものではないかもしれませんが、習慣的に感謝をすることでいろいろな感謝に気づきやすくなります。ぜひ感謝の効果を意識して、習慣的に感謝をしてみてください。
(筆者:菅原)
参考文献
Chen L, Liu J, Fu L, Guo C and Chen Y (2022) The Impact of Gratitude on Connection With Nature: The Mediating Role of Positive Emotions of Self-Transcendence. Front. Psychol. 13:908138. doi: 10.3389/fpsyg.2022.908138