見出し画像

Emotional Intelligence (EI・EQ) | リーダシップやウェルビーイングへの影響

みなさんは「Emotional Intelligence (EIまたはEQ, 感情知能) 」という概念をご存じでしょうか?

EIとは、簡単に言えば「自分や他者の感情状態を認識し、上手く活用する能力」のことです。EIの概念自体は20~30年前から提唱され、欧米のビジネスシーンを中心に活用が進められていますが、ここ数年でEIはさらに注目を集めています。

EIは、私たちの日常生活や職場において、どのような影響を与えるでしょうか?心理学などを中心に、EIの効果を示す研究結果が示されているので、ご紹介したいと思います。


Emotional Intelligence (EI)とは

Emotional Intelligence (EI) は、自分自身や他者の感情状態を認識し、感情をコントロール・活用する能力やスキルを指します。Emotional Intelligence Quotientの略称としてEQとされることもあり、日本語では「感情知能」「情動知能」「心の知能指数」などと訳されます。

EIは、Salovey and Mayer (1990) によって概念が提唱され、Goleman (1995) の書籍によって、世の中に広く知られる概念となりました。

現在では、心理学や経営学、組織学、教育、脳科学などさまざまな研究分野で、EIに関する研究が進められています。

EIの概念化・測定方法の違い

EIは、研究者によって概念化の方法が少し異なっており、主に「能力」「特性」「混合」の3つのモデルに分類できます。

能力ベースモデル
EIは、知性の1つの形態であり、人が自身の感情や他人の感情を理解し、管理する方法に影響するいくつかの能力から構成されるとみなす。

特性ベースモデル
EI を特性、つまり長期間にわたって持続する行動パターン(スキルとは異なる)と定義し、性格特性や気質傾向、自己効力信念などと関連付けられる。

混合モデル
EIは能力と特性の混合体であるとみなす。モチベーションや気分などがモデルに組み込まれることもある。

このようにEIの概念は、研究者によって能力と捉えるか、個人特性と捉えるか、あるいは能力と特性が混合したものと捉えるか差異があるため、測定方法やEI向上のアプローチなども多岐にわたっているが現状です。

ただし、EIは学習やトレーニングを通して、発達させることができるという証拠が増えてきており (Mattingly & Kraiger, 2019)、生涯を通じてあまり変化しない個人の特性というよりも、成長・発達させることが出来る能力(あるいは能力と特性の混合)と捉えるケースが多いようです。

EIのモデル

EIのモデルのうち、代表的なモデルの1つをご紹介します。
Goleman (2002) では、EIは「自分/他者」「認識/管理」の視点から分類されており、「自己認識」「自己管理」「他者認識」「関係性管理」の4つの領域から構成されるモデルを提唱しています。

EIを構成する4つの領域

自己認識 (Self-Awareness)
自己認識とは、自分の感情を読み取り、理解する能力であり、その感情が他者に与える影響も認識すること。自分の感情を認識できると、感情をコントロールしやすくなり、他者への理解も進みやすいとしている。

自己管理 (Self-Management)
自己管理とは、望ましい結果を得るために、自分の行動、思考、感情を柔軟に管理できる能力である。最適な自己管理は、幸福感、自己効力感、自信、他者とのつながりの感覚に影響する。

他者認識 (Awareness of Others)
他者認識は、他人の感情を正確に察知し、状況を適切に読み取る能力を指す。他人の考えや感情を感じ取り、共感して相手の立場に立つことができることを意味する。

関係性管理 (Relationship Management)
関係性管理とは、自分自身の感情、他人の感情、そして状況をうまく管理し、社会的な交流を成功させる能力を指す。良い関係性管理とは、自己利益のための行動ではなく、誰もが最良の結果を得られるように支援する試みと言える。

Goleman (2002) によれば、自己認識を高めることが、より高度な自己管理や他者認識に繋がり、これら3つを上手く理解・活用することで、関係性管理がより発揮できると言います。

Emotional Intelligenceの効果

Emotional Intelligence (EI) について、様々な研究が実施されていますが、その結果どのようなことが明らかとなっているのでしょうか?

ここではEIの主な効果について、研究で明らかにされているエビデンスを交えながらご紹介します。

仕事のパフォーマンス

Six Seconds社の研究結果によれば、EIはIQの2倍以上パフォーマンスを予測できることが報告されており、仕事のパフォーマンスの58%をEIが説明するというデータもあります。

「Emotional Intelligence 2.0」の著者であるTravis Bradberry氏の調査によれば、企業のトップパフォーマーのうち約90%はEIの高い従業員が占めているのに対して、ボトムパフォーマーでは約20%のみがEIが高いという結果が示されています。

EIの高い従業員は、自己管理能力や対人関係のスキルが優れています。自らのモチベーションやストレスをコントロールし、人間関係の衝突を避け、他者と協力できるため、高いパフォーマンス発揮できるのだと考えられています。

リーダーシップ

EIは、特に管理職などのリーダーシップに重要な能力であると考えられています。自分自身の感情を認知・管理するセルフ・マネージメントとともに、他の従業員の感情やニーズを読み取り、適切に対処することがリーダーシップの発揮に直結すると考えられています。

Lee et al. (2022) では、348名に対して実施したアンケート調査結果から、上司(リーダー)のEIの高さがチーム内の信頼、組織コミットメントを介して仕事のパフォーマンスに影響することを示しました。また、上司(リーダー)のEIが高いほど、変革型リーダーシップが発揮されることが示唆されています。

 図. リーダーのEIが従業員に与える影響
Lee et al. (2022) をもとに筆者作成

※変革型リーダーシップは、意思決定を中央集権化せず、部下に自主性と権限を与え、協力を促すリーダーシップ・スタイルを指します。取引型リーダーシップは、チームに明確な目標を与え、報酬などを用いて部下にモチベーションを生み出すスタイルです。

ストレス

EIの高さは、ストレスの低さと関連していることが様々な研究において言及されています。EIの高い人は、自らの感情に気づき管理する能力が高いため、ストレスに適切に対処することが出来ます。また、他者との人間関係を上手く調整することで、対人関係におけるストレスも回避・軽減しやすいと考えられます。

Fteiha & Awwad (2020) によれば、EIの高い学生ほど、能動的な問題解決や感情解決のコーピング・スタイルを取る傾向にあるとされています。EIが高いほど、自らの感情のバランスを整え、ポジティブな思考を生み出すことができ、問題やストレスの根本原因を分析し、冷静かつ楽観的に対処していることが示されています。

主観的ウェルビーイング

EIが主観的ウェルビーイングに影響することが、いくつかの研究から明らかになっています。

Li et al. (2021) は、看護師1,475名に対して調査を行った結果、EIと仕事のウェルビーイングの間に有意な正の相関 (r = 0.57) があることを示しました。また因果分析から、EIは仕事におけるウェルビーイングを高めることが示唆されました。

10代を対象としたEIと主観的ウェルビーイングに関する研究のメタ解析を行ったLlamas-Díaz et al. (2022) では、EIは主観的ウェルビーイングに対して効果量小~中程度 (d = 0.27~0.42) の影響を与えることが推測されました。


その他にも、Doǧru (2022) は職場におけるEIと従業員の心理状態の関係についてメタ解析をしており、EIは組織へのコミットメントや組織市民行動、仕事の満足感と正の相関があることが示されています。

これらさまざまなエビデンスが、ビジネスシーンなどでEIが注目され、積極的な活用が進められる理由の一つと言えるでしょう。

まとめ

Emotional Intelligence(EI)は、自己と他者の感情を理解し、管理する能力やスキルを指します。EIは「自己認識」「自己管理」「他者認識」「関係性管理」の4つの領域に分類され、モデル化されています。

また、EIは仕事のパフォーマンス、リーダーシップ、ストレスへの対処能力、主観的ウェルビーイングなどに影響を与えることが、様々な研究によって明らかにされています。これらのエビデンスから、EIはビジネスや個人の成功に寄与する要素として注目されています。

現在、日本におけるEIに対する注目度は欧米と比較して低いですが、今後、日本のビジネスシーンでも関心が高まっていく概念かもしれません。

(筆者:菅原)

私たちの研究について
 研究開発 | NECソリューションイノベータ (nec-solutioninnovators.co.jp)

ご意見・ご感想・お問い合わせ
 NECソリューションイノベータ株式会社
 イノベーションラボラトリ
 ウェルビーイング経営デザイン研究チーム
 wb-research@mlsig.jp.nec.com

参考文献

  • Salovey, P., & Mayer, J. D. (1990). Emotional intelligence. Imagination, cognition and personality, 9(3), 185-211.

  • Goleman, D. (1995) Emotional Intelligence: Why it can Matter More than IQ. Bantam: New York, NY, USA.

  • Mattingly, V., & Kraiger, K. (2019). Can emotional intelligence be trained? A meta-analytical investigation. Human Resource Management Review, 29(2), 140-155.

  • Goleman, D., Boyatzis, R. & McKee, A. (2002). Primal Leadership: Realizing the Importance of Emotional Intelligence, Harvard Business School Press: Boston.

  • Lee, C. C., Li, Y. S., Yeh, W. C., & Yu, Z. (2022). The effects of leader emotional intelligence, leadership styles, organizational commitment, and trust on job performance in the real estate brokerage industry. Frontiers in psychology, 13, 881725.

  • Llamas-Díaz, D., Cabello, R., Megías‐Robles, A., & Fernández-Berrocal, P. (2022). Systematic review and meta-analysis: The association between emotional intelligence and subjective well-being in adolescents. Journal of Adolescence, 94(7), 925-938.

  • Li, X., Fang, X., Wang, L., Geng, X., & Chang, H. (2021). Relationship between emotional intelligence and job well‐being in Chinese Registered Nurses: Mediating effect of communication satisfaction. Nursing open, 8(4), 1778-1787.

  • Doǧru Ç (2022) A Meta-Analysis of the Relationships Between Emotional Intelligence and Employee Outcomes. Front. Psychol. 13:611348.

  • Fteiha, M., & Awwad, N. (2020). Emotional intelligence and its relationship with stress coping style. Health psychology open, 7(2), 2055102920970416.