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日本人の幸福感の測り方 | 日本版主観的幸福感尺度と協調的幸福感尺度のご紹介

はじめに

前回の記事で、World Happiness Report 2023から日本の幸福度についてご紹介しました。
今回の記事では、日本における主要な幸福感の測定に関する研究をご紹介し、それらを通じて「日本人の幸福感をより正確に測るにはどうしたらよいか」を整理していこうと思います。


【ご紹介する2つの尺度】

  • 日本版主観的幸福感尺度Subjective Happiness Scale(SHS)

    •  4項目で成人の幸福の主観的評価が可能

    • 世界各国で翻訳されており、国際比較が可能

    • 日本語版についても十分な妥当性が確認されている

  • 協調的幸福感尺度Interdependent Happiness Scale(IHS)

    • 集団主義的な思想を取り入れて作成された

    • 幸福感を測る尺度として十分な妥当性が確認されている

    • 日本だけではなく他の国でも利用可能


政府による幸福感の調査

研究についてご紹介する前に、政府が行っている日本の幸福度に関する調査結果をご紹介します。

満足度・生活の質に関する調査

日本では、内閣府が「満足度・生活の質に関する調査」を2019年から行っており、これが日本におけるもっとも大規模な幸福に関する調査と言えます。この調査では、「家計と資産の満足度」「健康状態の満足度」「生活の楽しさ・面白さの満足度」といった13分野の満足度をアンケートで収集し、総合的な満足度(生活満足度)として計算します。アンケートは、それぞれの項目に対し、0~10点で自己評価を行うものです。

2023年報告書によると、総合的な生活満足度の全体平均は10点満点中5.79(男性平均5.67、女性平均5.90)となり、前年と比較してほぼ横ばいだったようです。COVID-19の影響を受け、主に非正規雇用者の満足度が2021年ころに急激に下がったのですが、現在ではほぼCOVID-19前の水準にまで回復しているそうです。
全体的なまとめとして、家族がいると単身世帯より満足度が高い、雇用形態や年収に関わらず、仕事へプラスの意識を持つことは満足度を顕著に上昇させるといったことが挙げられていました。

幸福感測定の課題

定点的な調査を行うことで、幸福度にどのような社会的要因が関係しているのかといったことを観測することができます。しかし、選定されている項目の内容は社会福祉の側面が強く、国として全体的な状態を把握するという観点では有益ですが、この調査で個人の幸福度がどういった状態なのかを把握することは難しいといえます。

こちらの記事でもご紹介した通り、心理学において、主観的な幸福を測定する尺度が作成されています。それらを用いることで、ある集団の主観的な幸福について測定することができます。しかし、海外で作成された尺度であれば、まずは正しいニュアンスで日本語化する必要があります。さらに、海外で作成された尺度では、”日本的な幸福”が測定できない可能性も指摘されています。

そこで今回の記事では、「主観的幸福感尺度の日本語化と日本人に対する測定」に関する研究、「集団主義的文化を考慮した尺度の作成と検証」に関する研究をそれぞれ要約し、日本における幸福感の測定手法とその測定結果をご紹介します。

研究紹介①:日本版主観的幸福感尺度

まずは、島井哲志先生らによる「日本版主観的幸福感尺度」に関する研究をご紹介します。

主観的幸福感の評価を簡便にできる尺度が必要

日本は経済的に豊かであり、長寿であり、衣食住環境が整っており、医療制度は整備されており、危険の少ない社会であり、福祉としての幸福の条件は満たされているように思えます。しかし、幸福度を測定すると、他の先進国と比較し、例年低い結果となっています。
これはどういうことなのかというと、統計データだけでは幸福度は測ることができないということです。そこで、主観的な状態を把握し、幸福感に関わる要因を検討するために幸福感に関する心理尺度を用いることになります。

幸福感に関する心理尺度にも種類があります。着目する観点で分類すると、以下の3パターンになります。

  1. 概念として定義されている単一の因子(幸福や人生満足感そのもの)を測定する

  2. 感情的評価(ポジティブ・ネガティブ)から幸福感を測定する

  3. 様々な因子から幸福感を測定する

日本の研究では主に、3に相当する尺度研究が行われていました。多面的な尺度の場合、「何で何を説明しようとしているのか」が明確でないまま分析されてしまい、幸福感そのものと、幸福感を支える要因が混同されてしまうことがあります。
さらに、日本では青年と高齢者を分けて測定を行っていました。高齢者については、高齢化に伴う変化をどのように受け止めているかといった要素を盛り込んでいたのです。それはそれで意味があることですが、それでは青年との比較や、年代を問わない全体像の把握ができません。

日本の幸福感の測定の課題についてまとめると、「統計データだけでは幸福感を測ることができない」「様々な因子から測定する多面的な尺度では、幸福感とそれを支える要因が混同されてしまう」「年代問わず使用できる尺度が必要」といったものでした。
そこで島井先生らは、日本で新たに使用できる幸福感尺度として、主観的幸福感尺度Subjective Happiness Scale(以下、SHS)の日本語版を作成しました。SHSは、測定する因子が比較的少なくバランスがとれており、年代を問わず幸福感を比較的簡便に測定する尺度として知られています。

SHSの特徴は、4項目で個人の幸福の主観的評価が可能であり、もとの英語版は広く研究に用いられています。様々な言語版が作成されており、国際的比較も可能です。
日本語版の作成は、日本人の研究者が日本語に翻訳し、他の研究者が英文に逆翻訳し、それを原著者がチェックするといった手続きを行い、さらにいくつかの確認を経て行われました。

SHS尺度の日本版は以下のような設問になりました。

[項目と選択肢]
① 全般的にみて,わたしは自分のことを( )であると考えている
1. 非常に不幸 ~ 7. 非常に幸福

② わたしは、自分と同年配の人と比べて、自分を( )であると考えている
1. より不幸な人間 ~ 7. より幸福な人間

③ 全般的にみて、非常に幸福な人たちがいます。この人たちは、どんな状況の中でも、そこで最良のものを見つけて、人生を楽しむ人たちです。あなたは、どの程度、そのような特徴を持っていますか?
1. まったくない ~ 7. とてもある

④ 全般的にみて、非常に不幸な人たちがいます。この人たちは、うつ状態にあるわけでないのに、はたから考えるよりも、まったく幸せではないようです。あなたは、どの程度、そのような特徴を持っていますか?
1. まったくない ~ 7. とてもある

日本版主観的幸福感尺度

4問目のみ逆転項目であり、得点が高いほどネガティブな回答となります。分析時にはそれを考慮して計算します。

日本の大学生を対象にSHSで幸福感を測定すると

まず、SHSの日本版作成にあたり、日本の大学生302人(男性136人、女性166人)を対象とした調査が行われました。SHSが意図したように測定できているかを確認するために、SHSのほかに、既存の幸福に関連する尺度としてpositive healthの生活の充実感の項目※1、GHQ※2、自尊感情尺度※3も合わせて測定しました。

※1 精神的健康度の指標として開発された「いきいき健康調査票」より、positive healthの生活の充実感に関する5項目が使われました。

※2 GHQ(General Health Questionnaire)とは、精神的健康を測る尺度で、オリジナル版は60項目から成ります。この研究では短縮版の12項目版が使われました。

※3 ローゼンバーグの自尊感情尺度を日本語化したもので、この研究では10項目が使われました。

測定結果は、全体平均は4.68、男性平均は4.55、女性平均は4.77となり、女性の方が統計的に有意に高い値を示しました。
同じ測定を5週間隔で行った結果も同じような結果となり、信頼性も十分であることが確認されました。

また、SHSと密接に関連すると考えられるpositive healthの回答について、高得点のグループの方が、統計的に有意に高いSHS得点を示しました。つまり、社会的にいきいき活動している人において、主観的幸福感が高いということが確認されたのです。

GHQの各症状得点との関係は、すべての症状について、SHS得点と統計的に有意な負の相関関係を示しました。特にうつ傾向については強い相関となっていました。うつ傾向を測る項目は、「人生に全く望みを失った」「死んだ方がましと考えた」などから成っており、主観的幸福感の低い人がうつ傾向を示すことは分かりやすくもあります。

自尊感情との関係は、SHS得点と統計的に有意な正の相関がありました。すなわち、主観的幸福感が高い人は、自尊感情が高い傾向にあることが示されました。

以上より、SHSで日本人の幸福感が測定できているであろうということが確認されましたが、測定対象が大学生に限定されていました。そのため、他の研究では範囲を社会人全体に広げた調査も実施されています。その結果についてもご紹介します。

日本の成人を対象にSHSを測定すると

SHSを用いて、日本の20歳以上の男女2,000人(男性1,000人、女性1,000人)に調査を行いました。SHSのほかに、生活満足感※4、幸福感※5、ストレス反応尺度※6も合わせて測定しました。

※4 生活満足感は、「ひとくちにいって、あなたは今の生活に満足していますか。それとも不満がありますか。」という質問に対し4段階で評価するものです。
※5 幸福感は、「全体的に言って、現在、あなたは幸せだと思いますか。それともそうとは思いませんか。」という質問に対し、4段階で評価するものです。
※6 ストレス反応尺度は、精神疾患をスクリーニングする目的の尺度であり、6項目から成ります。

SHSの測定結果は、全体平均が4.44、男性平均は4.30、女性平均は4.57となり、女性の方が高い値を示しました。この結果は、大学生を対象とした測定と大きな違いがありませんでした。

全体の年齢層ごとの平均値では、20歳代前半で4.22であり、それ以降低くなり40歳代後半に4.06と最も低い値を示します。そして50歳代前半で元と同じ4.22となり、70代後半、80歳以上では5.0超える値を示した。
男女別の結果では、40歳代前半および60歳代後半を除き、一貫して女性の方が高い平均値を示しました。男女ともに50歳代以降は、年齢が高くなるほど平均値が高くなりました。

図. 男女別の5 歳刻みSHS得点の平均
島井,大竹,宇津木,池見(2004)の表2の本調査データをもとに筆者作成

配偶関係でのSHS得点の比較では、「有配偶」の方が「未婚者」より高い値を示しました。未婚者はすべての年代で3点台である一方、有配偶ではすべて4点台であり、特に60歳以上ではかなり高い値となりました。
最終学歴では、最終学歴が中学の場合に3点台となり、他と比べて低い値となりました。
また、就業状態での比較では、「自営」「常勤」「パート・アルバイト」「無職」について大きな違いはありませんでしたが、無職がやや高い値を示しました。

SHS得点と生活満足度、幸福感には正の相関がみられました。生活満足度、幸福感特に女性の方が高い得点となっており、統計的にも有意な差がありました。
SHS得点とストレス反応尺度の得点には負の相関がみられ、ストレス反応尺度の得点が高く精神疾患のリスクが高い人はSHS得点が低く、逆にストレス反応尺度の得点が低い人はSHS得点が高くなっていました。

対象を成人に広げた調査においても、幸福感と密接に関連する尺度との相関がみられ、全体の平均点も似たような値となっていました。
さらに、年代別では20歳代で幸福感が高く、30~40歳代で低くなり、その後高齢になるにつれ高くなりました。グラフは緩やかなU字型となり、この傾向は他の幸福感の調査とも一致していました。U字型傾向は、日本だけではなく、世界的にみられる傾向です。

この測定についてまとめると、幸福感が高い集団は以下の通りでした。

  • 女性

  • 20歳代、もしくは50歳代以上(高齢の方が幸福感が高い)

  • 有配偶

年代および配偶関係については、他の国でも見られる傾向です。
性別による差については、アメリカや東南アジア、エジプト、メキシコなどでは見られず、日本や韓国では見られるという先行研究があります。

研究紹介②:協調的幸福感

次に、内田由紀子先生らによる「協調的幸福感」に関する研究についてご紹介します。

日本らしい幸福感を測る尺度が必要

国際比較に用いられる幸福感を測る尺度は、いずれも「自己の自立の実現」に焦点を当てています。なぜなら、尺度の作成元である国では、「自分が思考や行動、動機付けの主体であり、個性的であることが評価される」といった思想があるためです。

幸福感についても差があることが知られており、日本人の幸福感は「他者との絆」を意味すると考えられています。例えば、日本、インド、アメリカの学生における感情経験の調査(大石, 2004)によると、日本人はアメリカ人に比べ、一人でいるときよりも他の人と一緒にいるときの方が楽しい気持ちを経験するそうです。また、アメリカ、日本人の学生に幸福と不幸に関連する単語を作らせる調査(内田ら, 2009)によると、日本人は社会的調和と幸福を結び付ける傾向にありました。

他にも、日本人には「他の人と同じであることに安心感を覚える」といった特徴もあります。近くにいる人と同程度の達成度によって「普通さ」を認識した学生は、「落ち着き」が増すといった研究結果(石黒, 佐野, 2009)などからも、そのような傾向が見られます。
これは、東アジアにみられる「幸福は、制御不能な社会的混乱により簡単に失われてしまうかもしれない」という前提のもと、「捉え難い幸福や否定的な出来事がないこと」すなわち、「平和、静穏」が幸福である、という思想に基づくものです。一方欧米では、「興奮、熱狂」といった逆の感情が幸福の要素とされているのです。

まとめると、日本人は集団主義的であり、個人主義的な欧米より人間関係を重視し、自分と自分にとって重要な他の人についてバランスが取れた状態を幸福と捉えます。自分の幸福は他の人の幸福に依存しており、他の人の幸福は自分の幸福にとって重要な要素なのです。こういった幸福感を「協調的幸福感(Interdependent Happiness)」と呼びます。

協調的幸福感の特徴は日本などのアジアで顕著にみられますが、「人とのつながりや社会関係を求める」という人として基本的な事項であり、集団主義的な国においてもある程度みられる、共通の要素であるとも考えられます。

そこで、この協調的幸福感を測る尺度Interdependent Happiness Scale(以下、IHS)を作成し、いくつかの検証を行っています。
作成された尺度は以下のようなものでした。

[質問文]
以下の文それぞれについて、「1. 全くあてはまらない」「2.あまりあてはまらない」「3.どちらともいえない」「4.ややあてはまる」「5. 非常にあてはまる」のうち、あてはまる数字1つを選んで○をつけてください。

[項目]
1. 自分だけでなく、身近なまわりの人も楽しい気持ちでいると思う
2. 周りの人に認められていると感じる
3. 大切な人を幸せにしていると思う
4. 平凡だが安定した日々を過ごしている
5. 大きな悩み事はない
6. 人に迷惑をかけずに自分のやりたいことができている
7. まわりの人たちと同じくらい幸せだと思う
8. まわりの人並みの生活は手に入れられている自信がある
9. まわりの人たちと同じくらい、それなりにうまくいっている

Interdependent Happiness Scale

IHSと主観的幸福感との関係

作成したIHSとともに、主観的な幸福感のうち、協調的幸福感に関連すると思われるポジティブ・ネガティブ感情※7、生活満足度※8、友人関係満足度※9、相互依存度※10についても測定し、関係を確認しました。
測定対象は日本の大学生216人(男性68人、女性159人)でした。

※7 感情をはかるaffect scaleの中からポジティブ9項目(happy, clam, joy satisfiedなど)、ネガティブ12項目(depressed, bored, sad, nervousなど)を用いました。
※8 生活満足度はSWLS(Satisfaction With Life Scale)を用いました。
※9 友人関係満足度は、対人関係絶望感をはかる質問と、友人関係満足度尺度を用いました。
※10 相互依存度は、独立・相互依存的自己構成尺度を用いました。

測定の結果、IHSとポジティブ感情、生活満足度、友人関係満足度と正の相関を示し、ネガティブ感情および対人関係絶望感と負の相関を示しました。これらの結果は、IHSが対象者の幸福感を測る尺度として妥当であったことを示しています。
また、IHSは男性よりも女性の方が高い値となっていました。

次に、国際比較を行いました。
日本とアメリカの比較では、IHSとともに、幸福感と関連すると思われる自尊心(SES)※11、心理的ウェルビーイング※12、ミニマリスト幸福感※13も合わせて測定しました。
この調査では、日本人287人、アメリカ人102人に対し行われました。

※11 自尊心は、self-esteem scale(SES)の項目を用いました。
※12 心理的ウェルビーイングは、心理的ウェルビーイング尺度(PWBS)の「積極的な他者関係」を用いました。
※13 ミニマリスト幸福感尺度(MWS)を用いました。ミニマリストとは、東洋的な幸福の概念が「無」に焦点を置いていることからその名前がついており、尺度は「感謝」と「平和的な離脱」という2要素から成ります。

測定の結果、IHSについて日本とアメリカで似たような傾向を示し、文化の差があっても成り立つといった結果となりました。さらに、両国において、PWBSの「積極的な他者関係」、MWSの「感謝」および「平和的な離脱」と正の相関を示しました。しかし、アメリカでは「平和的離脱」との相関が日本と比べると小さくなっていました。この結果については、対人関係から得られる安らぎや、葛藤を避ける平和的感情について、日本の方が多く見られることに起因している可能性が考えられました。
さらにSESについては、アメリカではSWBに対する関連性が高く、日本ではSESよりもIHSの方がSWBに対する関連性が高いという結果でした。すなわち、アメリカでは「自立」という要素が幸福に深く関係し、日本では「平和」という要素が幸福に深く関係することを示します。

さらに、国際比較の範囲を広げ、日本453人(男性266人、女性187人)、韓国231人(男性138人、女性93人)、アメリカ199人(男性105人、女性94人)、ドイツ194人(男性107人、女性87人)についてデータを取得しました。
測定項目はIHSの3項目、SWLS、SESを用いました。

測定の結果、すべての国においてIHSの方がSESよりもSWBに対する関連性が高くなっていました。
IHSについて、統計的な有意差はないものの、日本と韓国では相対的なSWBに対する関連性が高くなっていました。これは日本とアメリカでの比較とは異なる結果ですが、質問項目が異なるため、あくまで参考として捉えてください。
SESについては、韓国とアメリカの間に統計的な有意差が見られ、アメリカの方がSWBに対する関連性が高くなっていました。

表. 4か国の成人におけるSWLS、SES、IHS
(それぞれMiddle agedのデータのみ掲載、SWLS: 5~25; SES: 10~50; IHS: 3~15)

最後に、日本の都道府県単位で、IHSを測定しました。
日本は集団主義的であるといわれますが、その傾向には地域差があると知られています。
平均家族数や離婚率、第三次産業従事者、年長者と同居する世帯、共働き世帯の数などの客観的な数値から、「地域I-C」という、その地域が個人主義的なのか、集団主義的なのかを示す値を計算できます。それらを用いることで、日本国内の都道府県単位についても、個人主義と集団主義がIHSの値に及ぼす影響を確認できるのです。
測定対象は日本の大学の卒業生358人で、出身地(都道府県)ごとに十分な人数が確保できた34都道府県を分析対象としました。
測定項目はIHS、SWLS、SESを用いました。

測定の結果、個人主義的な都道府県出身者よりも、集団主義的な都道府県出身者の方が、SESよりIHSがSWLSに対する関連性が高くなっていました。国家間比較でも集団主義的な国において、協調的幸福感が主観的福感に強く関連していましたが、地域間比較でも同じ傾向にあったのです。

まとめると、以下のような結果となっていました。

  • 日本人学生、アメリカ人学生について、協調的幸福感を測定することで主観的幸福感を把握することができる

  • 学生だけではなく、社会人についても有効である

  • 日本とアメリカ以外の国でも、協調的幸福感の測定は、主観的幸福感の把握に用いることができる

  • 協調的幸福感は、文化圏や地域での差がある可能性が示唆された

おわりに

今回は、幸福感の測定に関する日本の研究をご紹介しました。

ひとつ目は、日本版主観的幸福感尺度Subjective Happiness Scale(SHS)で、関連する幸福感を測る尺度との関係から、日本での十分な妥当性が確認されました。測定結果では、「女性」「20歳代もしくは50歳代以上」「有配偶」の人が高い値を示しました。

もうひとつは、協調的幸福感尺度Interdependent Happiness Scale(IHS)で、人間関係を重視し、普通であることを幸福の要素として捉える集団主義的な思想を取り入れていました。関連する幸福感を測る尺度との関係から十分な妥当性が確認され、日本だけではなく他の国でも利用可能であることが分かりました。また、集団主義的か個人主義的かどうかで、国家間や地域間の差がある可能性が示されました。

以上のように、幸福感を測る尺度を慎重な手続きを踏んだうえで日本語に翻訳を行ったり、”日本らしさ”を加えた尺度を作成するといったことが、研究の中で行われています。

一般に広く伝えられている幸福度ランキングでは、欧米的な幸福感を前提とした測定結果が用いられています。日本の幸福度は世界に比べて低いといわれていますが、尺度によっては少し違った結果になる可能性もあるのです。そういったことを念頭に置くことで、世界における日本の幸福感の立ち位置に対する感想も変わるかもしれません。

参考文献

  1. 内閣府,「満足度・生活の質に関する調査」, https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/manzoku/index.html(2023.09.11閲覧)

  2. 島井哲志, 大竹恵子, 宇津木成介, & 池見陽. (2004). 日本版主観的幸福感尺度 (Subjective Happiness Scale: SHS) の信頼性と妥当性の検討. 日本公衆衛生雑誌, 51(10), 845-853.

  3. 島井哲志, 山宮裕子, & 福田早苗. (2018). 日本人の主観的幸福感の現状: 加齢による上昇傾向. 日本公衆衛生雑誌, 65(9), 553-562.

  4. Hitokoto, H., Uchida, Y. Interdependent Happiness: Theoretical Importance and Measurement Validity. J Happiness Stud 16, 211–239 (2015).

  5. Oishi, S., Diener, E., Napa Scollon, C., & Biswas-Diener, R. (2004). Cross-situational consistency of affective experiences across cultures. Journal of Personality and Social Psychology, 86(3), 460.

  6. Uchida, Y., & Kitayama, S. (2009). Happiness and unhappiness in east and west: themes and variations. Emotion, 9(4), 441.

  7. 黒石憲洋, & 佐野予理子. (2012, September). 「ふつう」 認知と感情状態の関連における個人差要因の影響-成功回避動機の観点から. In 日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第 76 回大会 (pp. 2AMB10-2AMB10). 公益社団法人 日本心理学会.

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