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ウェルビーイング研究

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ウェルビーイングに関連した研究の研究者による解説記事を集めています。ウェルビーイングをもう少し詳しく知りたい人に向けて、毎週金曜日に更新・追加していきます。
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記事一覧

謙虚さと心理的ウェルビーイング|謙虚さの定義、謙虚さと超越性と社会的活動の関係

謙虚さがウェルビーイングと関係していることは、ポジティブ心理学の初期から研究されてきました(Seligman & Csikszentmihalyi, 2000)。また、最近は、力強いリーダーシップに対して、謙虚なリーダーシップも見直されています(Owns & Heckman, 2012)。しかし、謙虚さは必ずしもポジティブなものではないという考えも根強く残っています。 特に、社会的活動の文脈で批判されています(Bloomfield, 2020)。なぜなら、社会的活動には「率

“かわいさ”は人にどのような影響をもたらすか

はじめに“電車で赤ちゃんと目があった時”や“スマートフォンで子猫の写真を見た時”など、かわいいものを見た時に思わず笑顔になったり、少し気分が良くなったという体験はありますか? そのような“かわいさ”に関する定義や体験について説明するベビースキーマ(baby schemaもしくはKindchenschema)と呼ばれる概念があります。今回はベビースキーマと幸福感の関係についてご紹介したいと思います。 ベビースキーマとは“かわいさ”に関する心理的研究は、ほとんどがベビースキーマ

Emotional Intelligence (EI) | 感情知能の持つ影響・効果

みなさんは「Emotional Intelligence (EIまたはEQ, 感情知能) 」という概念をご存じでしょうか? EIとは、簡単に言えば「自分や他者の感情状態を認識し、上手く活用する能力」のことです。EIの概念自体は20~30年前から提唱され、欧米のビジネスシーンを中心に活用が進められていますが、ここ数年でEIはさらに注目を集めています。 EIは、私たちの日常生活や職場において、どのような影響を与えるでしょうか?心理学などを中心に、EIの効果を示す研究結果が示さ

【論文紹介】ノスタルジーを感じてウェルビーイングに -感謝感情による媒介効果

みなさんは日常のふとした瞬間に、過去のことを思い出して懐かしさを覚えたり、心が温かくなるような経験をしたことはありますか? 今回は、そんな「ノスタルジー」を感じることと、感謝やウェルビーイング(幸福感)との関係を調べた研究についてご紹介します。 ノスタルジーの効果ノスタルジーとは、過去の出来事や人々について思い出したり、過去の自分について思い出すこと通して、懐かしさや切なさを感じることを意味します。ノスタルジーは結婚や誕生日、同窓会などの社会的なイベントをきっかけに感じる

【論文紹介】エピソードを記録してウェルビーイングに -エピソード記録が、欲求充足・感謝・セルフコンパッションに繋がる

近年、国内外で非常に注目されるウェルビーイングですが、WHOでは「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた(well-being)状態にあること」と言及されています。 なかでも、精神的なウェルビーイングは「幸福」や「充実」などと捉えられており、ポジティブ心理学を中心にウェルビーイング高める方法の研究がされています。 本記事では、エピソードを記録することを通して、ウェルビーイングの向上にアプロー

【論文紹介】SNSで感謝を閲覧すると幸福度が高まる? -Facebookを活用した感謝研究

みなさんはSNSを利用しているでしょうか? X (旧:Twitter), Facebook, Instagram, TikTokなど、SNSを1つ以上は利用しているという人が多いのではないかと思います。ほとんどのSNSでは、友人や知り合い、あるいは全く知らない人同士のやりとりを閲覧することができます。 以前、他者の感謝を目撃した人は、その感謝の送り手と受け手に対する心理にポジティブな影響があるという研究をご紹介しました。この「感謝の目撃効果」がSNSでも実現したとすれば、

【独自研究】なぜ、人数が増えると、顔が見えなくなるのか?-ダンバー数シミュレーション

よく、組織が大きくなると、メンバーを把握できなくなっていくと言われます。すると、コミュニケーションが少なくなり、疎遠になり、結果的にウェルビーイングを損なうかもしれません。 関係者が10人や20人なら、顔と名前が一致するだけでなく、人柄も分かったりします。でも、それが100人や200人になると、どうでしょう?全員の顔と名前が一致するかすら、怪しいですよね? この人の認識が怪しくなってしまう限界値のことをダンバー数と言い、だいたい150人くらいだと言われています(Dunba

互恵性・社会関係資本とウェルビーイング

Curryら(2018)のメタ分析によれば、他人を助ける行動(親切行動、利他的行動)はウェルビーイングに効果がありますが、その効果は控えめ(効果量推定値δ=0.28)だと言います。ただし、この結果は、利他的行動を測定した研究について分析されたものであり、利他的な意図(動機)については言及されていません。 ところが、Konrathら(2012)によれば、他人を助けたいという動機で参加したボランティアは、ボランティアをしなかった人よりも長生きし、自己中心的な動機で参加したボラン

感謝はウェルビーイングを高めるか? -日本人の感謝感情と負債感情

アメリカの研究では、「1日5個の感謝を記録することで、主観的ウェルビーイングが高まる」という実験結果が報告されています (Emmons & McCullough, 2003)。 一方で、日本人に対して同様の実験を行っても、ウェルビーイングが高まるという結果が得られないということが報告されています (相川ら, 2013)。 では、いったいなぜ、日本では感謝によってウェルビーイングが高まらないのでしょうか。 ウェルビーイング向上を邪魔する「申し訳なさ」日本人において感謝でウ

【研究紹介】愛情ホルモン「オキシトシン」の効果 -オキシトシンと向社会行動・感謝・ウェルビーイングの関係

みなさんは「オキシトシン」という神経伝達物質をご存知でしょうか? オキシトシンは、相手とのスキンシップや思いやり、信頼の感情などと関連していることから、"愛情ホルモン" や "信頼ホルモン" などと呼ばれています。感謝の気持ちを示したり、感謝を受け取った際には、脳からオキシトシンが分泌されること報告されています。 今回は、オキシトシンの分泌が幸福感や感謝の気持ち、向社会的な行動にどのような関係があるかを検証した研究についてご紹介したいと思います。 ビデオを用いたオキシト

【基礎知識】実存的感謝−苦しんだことへの感謝

人生の転機の話を聞くと、「大病を患い、死の危機に瀕した後、そこから回復したときに人生観が変わった」という人たちがいます。例えば、ある人は、今では謙虚で優しいですが、「昔は、威圧的だった」と言い、性格が180度変わってしまったそうです。このような体験をした人たちは、「今では、人生観が変わるほどの体験ができたことに感謝している」という発言をよくします。このように苦痛に満ちたネガティブな出来事を、ポジティブに自己統合する感謝のことを、実存的感謝と言うそうです。 今回は、実存的感謝

【論文紹介】マインドフルネスと感謝−マインドフルネスは感謝の感度を調整する

感謝の日記などの感謝介入法は、ポジティブ心理学介入(Positive Psychological Intervention; PPI)の代表的な方法の1つです。ポジティブ心理学介入とは、「心理的な成長と幸福に貢献するという長期的な目標を持って、ポジティブな思考、感情、行動を促進する活動の総称」です(Lim & Tierney, 2023)。 もう一つの代表的なポジティブ心理学介入として、瞑想を行うマインドフルネス介入があります。感謝介入とマインドフルネス介入は、どちらが有効

【論文紹介】自然への感謝−環境活動支援と向環境行動の促進

人類の多くの文化に収穫祭・謝肉祭・感謝祭などがあるように、人々が自然の恵みに対して感謝の気持ちを抱くことは、良く知られています。ところが、心理学研究では、感謝は主に対人関係の中で理解され(Algoe, 2012)、自然への感謝は対象外となっています。 日本の研究では、「恩恵」以外にも、「幸運」や「平穏」によっても感謝が生起されると報告されています(蔵永・樋口, 2011)。しかし、やはり自然への感謝は含まれていません。 一方、教育者や作家によって、自然への感謝の気持ちが向

【論文紹介】有害な職場環境を予防するには?−心理資本が職場毒性を予防する

有害で非生産的な職場環境を表す専門用語に「職場毒性(workplace toxic)」があります。図1のように、すでに多くの職場毒性が研究されています。組織に所属していると、思い当たるものが1つはあるのではないでしょうか? 職場毒性は、一度、組織の中に起こってしまうと改善が難しく、企業によっては致命傷になります。そのため、予防を考える必要があります。 これに対し、Sarkarら(2023)は、感謝がポジティブ心理資本を高め、ポジティブ心理資本が職場毒性に対する耐性をもたら