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ウェルビーイング研究

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ウェルビーイングに関連した研究の研究者による解説記事を集めています。ウェルビーイングをもう少し詳しく知りたい人に向けて、毎週金曜日に更新・追加していきます。
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記事一覧

インターネットの普及とウェルビーイング

はじめに日本において2021年のスマートフォンの個人保有割合は68.5%となっており、インターネット利用率は82.9%となっています。SNSの利用率も特に若い世代において高くなっています(図1)。 こういったなか、インターネットの利用がウェルビーイングに何らかの影響を及ぼすのではないかと懸念される方もいらっしゃるかもしれません。 以前こちらの記事で、「社会的比較」に関する研究をご紹介しました。SNSの利用目的や利用の仕方によっては、他人と自分を比べる社会的比較が生じやすく

【基礎知識】ウェルビーイングと収入の関係|カーネマンの研究結果の反証と解釈

直感的には、貧乏よりも裕福な方が幸せだと考えられるため、収入が多ければ多いほどウェルビーイングは高いと考えられます。もちろん、生活が困窮する収入よりは、生活に困らない程度の収入があった方が幸せなのは間違いないでしょう。 これに対し、Kahneman & Deaton (2010) は、ある一定上の収入を超えると幸せを感じにくくなっていくという有名な調査結果を示しました。この結果は、ウェルビーイングと収入の関係についての定説となっていきました。 しかしながら、近年では少し異

健康と幸福感を高める自然との触れ合いとは?

はじめに自然環境とウェルビーイングの関係について、こちらの記事でご紹介をしました。 今回ご紹介するのは、ウェルビーイングを高める自然環境との関わり合い方を具体的な自然体験として提示した論文です。自然体験が人の健康に必要なものであるということを示すエビデンスの一つであり、引用数も多い論文です。ウェルビーイングのみならず、環境教育や環境保全に興味がある方もぜひご一読ください。 自然環境は人の健康を増進するのか?人々が自然環境と触れ合うことは、健康に良い影響をもたらすと考えられて

食事とウェルビーイング | ウェルビーイングを高める食事とは?

1990年代後半に提唱されたポジティブ心理学は幸福や満足感、強みなどに焦点を当て、人間の心理的な繁栄を目指した研究が推進されてきました。感謝やマインドフルネス、強みなど、さまざまなアプローチから、私たちのウェルビーイングを向上させるための介入方法が検討されてきました。 近年では、食に関する要因がウェルビーイングに高めるという新たなパターンが発見され、ポジティブ心理学領域において食品や食習慣などに着目した研究が増加しています。食事が身体的な健康だけでなく、精神的な側面において

【基礎知識】人間関係を構築・維持する方法|黙示録の四騎士とサウンド・リレーションシップ・ハウス理論

PERMA理論やSPIRE理論の「R(relationship)」や、心理的ウェルビーイングの6要素の1つが「積極的な他者関係(positive relationship)」などから分かるように、ウェルビーイングには人間関係が欠かせません。(詳細は、以下の記事を参照してください) 今日、よく参照される人間関係の基盤的な研究の1つに、J. Gottmanの研究があります。Gottmanは、恋人同士や夫婦を対象にして、その関係性の変化(構築・維持・崩壊)を20年以上追跡調査して

【論文紹介】高齢者のスポーツ観戦とウェルビーイング

はじめに「スポーツ選手やアーティストを熱心に応援することで元気をもらえた」、「一緒に盛り上がる仲間がいることで充実感を感じた」、そんな経験をしたことはあるでしょうか? 近年、介護の現場での取り組みとして、地元のスポーツチームを応援するプログラムを取り入れることで、高齢者の活力を高めることができた、などというニュースを見かけることもあります。 日本ではそのような活動を「推し活」などと呼ぶこともありますが、実は海外でも同じような取り組みに注目が集まっているようです。 今回の記

謙虚さと心理的ウェルビーイング|謙虚さの定義、謙虚さと超越性と社会的活動の関係

謙虚さがウェルビーイングと関係していることは、ポジティブ心理学の初期から研究されてきました(Seligman & Csikszentmihalyi, 2000)。また、最近は、力強いリーダーシップに対して、謙虚なリーダーシップも見直されています(Owns & Heckman, 2012)。しかし、謙虚さは必ずしもポジティブなものではないという考えも根強く残っています。 特に、社会的活動の文脈で批判されています(Bloomfield, 2020)。なぜなら、社会的活動には「率

“かわいさ”は人にどのような影響をもたらすか

はじめに“電車で赤ちゃんと目があった時”や“スマートフォンで子猫の写真を見た時”など、かわいいものを見た時に思わず笑顔になったり、少し気分が良くなったという体験はありますか? そのような“かわいさ”に関する定義や体験について説明するベビースキーマ(baby schemaもしくはKindchenschema)と呼ばれる概念があります。今回はベビースキーマと幸福感の関係についてご紹介したいと思います。 ベビースキーマとは“かわいさ”に関する心理的研究は、ほとんどがベビースキーマ

Emotional Intelligence (EI・EQ) | リーダシップやウェルビーイングへの影響

みなさんは「Emotional Intelligence (EIまたはEQ, 感情知能) 」という概念をご存じでしょうか? EIとは、簡単に言えば「自分や他者の感情状態を認識し、上手く活用する能力」のことです。EIの概念自体は20~30年前から提唱され、欧米のビジネスシーンを中心に活用が進められていますが、ここ数年でEIはさらに注目を集めています。 EIは、私たちの日常生活や職場において、どのような影響を与えるでしょうか?心理学などを中心に、EIの効果を示す研究結果が示さ

【論文紹介】ノスタルジーを感じてウェルビーイングに -感謝感情による媒介効果

みなさんは日常のふとした瞬間に、過去のことを思い出して懐かしさを覚えたり、心が温かくなるような経験をしたことはありますか? 今回は、そんな「ノスタルジー」を感じることと、感謝やウェルビーイング(幸福感)との関係を調べた研究についてご紹介します。 ノスタルジーの効果ノスタルジーとは、過去の出来事や人々について思い出したり、過去の自分について思い出すこと通して、懐かしさや切なさを感じることを意味します。ノスタルジーは結婚や誕生日、同窓会などの社会的なイベントをきっかけに感じる

【論文紹介】エピソードを記録してウェルビーイングに -エピソード記録が、欲求充足・感謝・セルフコンパッションに繋がる

近年、国内外で非常に注目されるウェルビーイングですが、WHOでは「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた(well-being)状態にあること」と言及されています。 なかでも、精神的なウェルビーイングは「幸福」や「充実」などと捉えられており、ポジティブ心理学を中心にウェルビーイング高める方法の研究がされています。 本記事では、エピソードを記録することを通して、ウェルビーイングの向上にアプロー

【論文紹介】SNSで感謝を閲覧すると幸福度が高まる? -Facebookを活用した感謝研究

みなさんはSNSを利用しているでしょうか? X (旧:Twitter), Facebook, Instagram, TikTokなど、SNSを1つ以上は利用しているという人が多いのではないかと思います。ほとんどのSNSでは、友人や知り合い、あるいは全く知らない人同士のやりとりを閲覧することができます。 以前、他者の感謝を目撃した人は、その感謝の送り手と受け手に対する心理にポジティブな影響があるという研究をご紹介しました。この「感謝の目撃効果」がSNSでも実現したとすれば、

【独自研究】なぜ、人数が増えると、顔が見えなくなるのか?-ダンバー数シミュレーション

よく、組織が大きくなると、メンバーを把握できなくなっていくと言われます。すると、コミュニケーションが少なくなり、疎遠になり、結果的にウェルビーイングを損なうかもしれません。 関係者が10人や20人なら、顔と名前が一致するだけでなく、人柄も分かったりします。でも、それが100人や200人になると、どうでしょう?全員の顔と名前が一致するかすら、怪しいですよね? この人の認識が怪しくなってしまう限界値のことをダンバー数と言い、だいたい150人くらいだと言われています(Dunba

互恵性・社会関係資本とウェルビーイング

Curryら(2018)のメタ分析によれば、他人を助ける行動(親切行動、利他的行動)はウェルビーイングに効果がありますが、その効果は控えめ(効果量推定値δ=0.28)だと言います。ただし、この結果は、利他的行動を測定した研究について分析されたものであり、利他的な意図(動機)については言及されていません。 ところが、Konrathら(2012)によれば、他人を助けたいという動機で参加したボランティアは、ボランティアをしなかった人よりも長生きし、自己中心的な動機で参加したボラン