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ウェルビーイング研究

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ウェルビーイングに関連した研究の研究者による解説記事を集めています。ウェルビーイングをもう少し詳しく知りたい人に向けて、毎週金曜日に更新・追加していきます。
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記事一覧

2024年のウェルビーイング記事まとめ|NECソリューションイノベータ

2024年も、もう少しで終わりますね。 今年、私たちはウェルビーイングや感謝に関する記事を93件投稿してきました。記事の内容は少し難しいものだったかもしれません。これは、狙ってそうしていました。 ここ数年で、ウェルビーイングという言葉はよく聞かれるようになり、それにともない「ウェルビーイングとは?」といった入門的な文章は、ウェブサイトを検索すると簡単に見つかります。 その一方で、論文検索を用いれば、専門的なウェルビーイングに関する論文も数多く見つけることができます。しか

【論文紹介】技術受容モデルのご紹介 | UTAUTを用いた新しいテクノロジーの受容とウェルビーイングに関する研究

はじめにインターネット、携帯電話、スマートフォン、生成AIなど、新しい技術が世に出てきたときに、それらを受け入れやすい人・そうでない人がいると思います。筆者の周りでは、父が真っ先に新しい技術を受け入れていくタイプで、逆に母は懐疑的なタイプで、私はその中間でした。また、新しい技術を使う父はとてもいきいきとして見えます。このように、技術の受容性には個人によって違いが見られるようです。 今回は、新技術に対する受容性に関する理論「技術受容モデル(UTAUT)」をご紹介します。また、

ダイバーシティとインクルージョン -組織においてダイバーシティとインクルージョンを実現するための研究知見

近年、職場における「ダイバーシティ(多様性)」や「インクルージョン(包括性)」という言葉を耳にする機会が増えています。これらは、ダイバーシティ&インクルージョンを略して「D&I」や、公正性(Equity)を含めた「DEI」と呼ばれ、企業を中心にさまざまな場面で推進されています。 ダイバーシティやインクルージョンの重要性は、新たなアイデアや価値を生み出すためのイノベーションの観点や、労働力不足における多様な人材の活躍などを背景に語られています。持続的な開発目標であるSGDsの

組織の徳倫理学|徳と企業経営の交差点

数回前の記事で、ウェルビーイングの1つであるアリストテレスのユーダイモニアと起源が同じである徳倫理学について触れました。 現在の倫理学は、主として功利主義・義務論・(現代)徳倫理学の3つに分けられました。さらに、現代徳倫理学は、主としてアリストテレス徳倫理学(新アリストテレス主義)・行為者に基づく徳倫理・多元主義的徳倫理の3つに分けることができました。 倫理学は、「善とは何か?」や「正しい行為とは何か?」を考える哲学ですが、人間個人を対象にしています。しかし、現代社会を構

心理的資本 (PsyCap) | 心理的資本と従業員のパフォーマンス・ウェルビーイング

心理的資本(Psychological Capital; PsyCap)という言葉をご存じでしょうか? 心理的資本は、ポジティブ心理学の隆盛にともなって2000年代初頭に提唱された概念です。心理的資本は、私たちのポジティブな心理状態を高め、仕事のパフォーマンスやウェルビーイングを向上させるための鍵として機能するものとして期待されています。 今回の記事では、心理的資本(PsyCap)の基本的な構成要素や測定方法、そして、私たちへの影響について紹介していきます。 心理的資本

【基礎知識】徳倫理学の初歩

徳倫理(virtue ethics)は、アリストテレスを起源の1つとする倫理学で、アリストテレス倫理学ではユーダイモニア(善き生、人間の幸福、人間の生の開花flourishing)を徳倫理の核心的概念と考える人もいます(村松, 2017)。一方、心理的ウェルビーイングはユーダイモニアを心理学的に定義した概念です。すなわち徳倫理と心理的ウェルビーイングは祖を同じくしています。そのため、徳倫理学での議論は、ウェルビーイングに関係する可能性があります。(心理的ウェルビーイングについ

芸術とウェルビーイング | 芸術鑑賞や芸術制作が私たちのウェルビーイングに与える影響とは?

みなさんは日常のなかで、芸術に触れることはあるでしょうか? 芸術やアートと聞くと、絵画や彫刻などをイメージするかもしれませんが、それらばかりではありません。音楽を聴いたり、絵を描いたり、小説を読んだり、もっと身近なものも芸術との関わりと言えるでしょう。 このような芸術との関わりは、私たちの心や身体にどのような影響を与えるでしょうか。近年の研究では、芸術との触れ合いが、単なる娯楽を超えて、私たちの健康やウェルビーイングに関連することが示されています。 本記事では、芸術を鑑

【論文紹介】「意味ある仕事」を測定するWAMI

はじめにみなさんは働く上で何を重要視しているでしょうか。“勤務時間に対し十分な給与が得られる”、“休暇がとりやすい”、“希望した場所で働ける”などの「働きやすさ」はもちろんのこと、自分の仕事に対して感じる“やりがい”や“誇り”といった「働きがい」も重要に感じるのではないでしょうか。 ワーク・エンゲージメントの文脈で紹介されることの多い『仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)』では、「仕事の資源」と「個人の資源」がワーク・エンゲージメントを高め、ポジティブなアウトカムにつ

【基礎知識】セルフ・コンパッション概論

セルフ・コンパッション(self-compassion)は、主に自分への思いやりの心を意味し、2003年に提唱されて以来、20年で急速に研究が増えている研究テーマです。様々な研究によって、概念定義、測定方法、他の概念への効果が確立されつつあり、開発された心理療法は様々な場面への適用が試されています。それらの研究の中で、ウェルビーイングとの関連も明らかにされてきています。 今回は、セルフ・コンパッションの提唱者であるNeffが総論(Neff, 2023)として全体像をまとめて

希望とウェルビーイング | 希望に関する心理学研究とウェルビーイングとの関連

みなさんは、ご自身の生活が今後良くなっていくと希望を抱くことは出来ているでしょうか? 内閣府による世論調査では、1968年から現在に至るまで「今後の家庭の生活は良くなっていく」と回答する人の割合は、大きく減少しています。特に、オイルショックやバブル崩壊のタイミングで割合は大きく低下しており、21世紀に突入して以来、基本的に10%を下回っています。 「生活が良くなっていく」という回答の割合が低迷している背景には、さまざまな要因があると考えることが出来そうですが、全体として、

【基礎知識】VIAの強みとウェルビーイングの関係

以前の記事で、職場へのポジティブ心理学介入をご紹介しました。その中で、「強み」に基づいたストレングス介入があることを簡単に説明しました。そして、有名な強みの測定方法には、VIA (Value In Action) と Clifton’s Strengthsがあることもご紹介しました。 今回は、VIAに基づくストレングス介入の原点となった研究を2つほどご紹介したいと思います。 VIAは、VIA Institute on Characterにアカウントを作成すると無料で測定す

睡眠とウェルビーイング | 睡眠は身体的・精神的・社会的にウェルビーイングと関連する

現代社会において、私たちは仕事や責任、娯楽などに追われ、睡眠は犠牲にされがちな要素の一つと言えるでしょう。実際、厚生労働省によると1976年から2011年までの縦断的な調査から、日本人の睡眠時間は減少傾向にあります。 ほとんどの人にとって睡眠は1日の20%から40%を占める重要な要素と言えます。睡眠は、疲労回復はもちろんのこと、認知機能、身体的機能、メンタルヘルス、幸福感など、多岐にわたる生理的・心理的機能に関与するとされます。 私たちのウェルビーイングのさまざまな面にお

「共感」とウェルビーイング

はじめに今回は、ウェルビーイングの要素のひとつである「共感」についてご紹介します。 これまでの記事で、ウェルビーイングの構成要素がどのように捉えられているか、もしくは個別の要素はどのような概念であり、どのような研究がされているのか、といったことをご紹介してきました。 まずは、ウェルビーイングの構成要素についておさらいしてから、共感の位置付けや概念の解説をしていこうと思います。 ウェルビーイングの構成要素としての共感今回ご紹介するウェルビーイングは幸福としてのウェルビーイング

【基礎知識】エンゲージメントとウェルビーイングの関係|エンゲージメントの調整効果・媒介効果・決定要因

Gallup社の「State of the Global Workplace Report 2024」によると、日本の従業員エンゲージメントのスコアは6%で、香港とならび141カ国中で最下位でした。2017年以降、日本の従業員エンゲージメントは常に5~6%であり、日本の企業では従業員エンゲージメントの向上が重要な課題の一つとなっています。 一方、ウェルビーイングとエンゲージメントは関連した概念だと考えられます。例えば、PERMAやSPIREといったポジティブ心理学のウェルビ