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ウェルビーイング研究

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ウェルビーイングに関連した研究の研究者による解説記事を集めています。ウェルビーイングをもう少し詳しく知りたい人に向けて、毎週金曜日に更新・追加していきます。
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#人生満足度

【基礎知識】ウェルビーイングと収入の関係|カーネマンの研究結果の反証と解釈

直感的には、貧乏よりも裕福な方が幸せだと考えられるため、収入が多ければ多いほどウェルビーイングは高いと考えられます。もちろん、生活が困窮する収入よりは、生活に困らない程度の収入があった方が幸せなのは間違いないでしょう。 これに対し、Kahneman & Deaton (2010) は、ある一定上の収入を超えると幸せを感じにくくなっていくという有名な調査結果を示しました。この結果は、ウェルビーイングと収入の関係についての定説となっていきました。 しかしながら、近年では少し異

【論文紹介】自伝的記憶-思い出とウェルビーイング

「思い出」を思い出して幸せな気持ちになることは、多くの人が経験しているのではないでしょうか?そうだとすれば、記憶はウェルビーイングに関係している可能性が高そうです。 実際、記憶とウェルビーイングの研究を調べてみると、自伝的記憶(autobiographical memory)とウェルビーイングの関係を確かめた論文が見つかります。 最近の研究では、会話で自伝的記憶を思い出すときに共有現実(shared reality)を経験すると、心理的ウェルビーイングが向上することや(B

【基礎知識】畏敬の念 | 畏敬の念とウェルビーイングはどのように関係するか?

みなさんは、大海原に沈む夕日を眺めたとき、満天に輝く星空を見上げたとき、博物館で巨大な恐竜の化石を目の前にしたとき、歴史が刻まれた寺社仏閣や教会を訪れたとき、新しい生命の誕生の瞬間に立ち会ったとき、どのような感情が湧いてくるでしょうか? このような自然や宇宙、生命、芸術、建築など、広大で崇高な存在に対して、驚嘆し感銘を受ける感情は「畏敬の念 (Awe)」と呼ばれています。 近年、この畏敬の念に焦点を当てた研究は増加傾向にあります。そして、畏敬の念が、私たちの心理状態や行動

【論文紹介】ウェルビーイングの文化差-人生満足度と協調的幸福感の国際比較

World Happiness Report 2023によれば、国別の幸福度ランキングで日本は137ヵ国中47位でした。毎年、日本は50位前後にランキングされており、先進国の中ではいつも低い位置にいます。これに対して、「測定項目が日本の文化に適していないのではないか?」という議論がよく行われています。これは、幸福の理想像が国や文化によって異なると考えられるのに対し、文化的な差異を考慮しない共通尺度でランキングが行われているためです。 これに対して、一言・内田(2015)は、

World Happiness Reportから読み解く世界のウェルビーイング – COVID-19は私たちのウェルビーイングにどのように影響したか

World Happiness ReportとはWorld Happiness Report (世界幸福度報告) とは、国際連合の持続可能開発ソリューションネットワーク (Sustainable Develop Solution Network) が発行する幸福度調査のレポートです。レポートは2012年から毎年 (2014年を除く) 公開されており、世界各国のウェルビーイングを捉え、国家間で比較できるものとして広く知られています。 World Happiness Repor