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【独自研究】タックマンモデルとエンゲージメント|信頼構築のためのチームビルディングの手順

みなさんは、「タックマンモデル」(Tuckman, 1965)を聞いたことはあるでしょうか?タックマンモデルは、小集団がチームとして機能するまでの状態遷移をモデル化したものです。もしかしたら、チームビルディング組織開発、あるいはアジャイル開発の文脈で聞いたことがあるかもしれません。

今回は、タックマンモデルと弊社で研究していたエンゲージメント要因との関係についてご紹介したいと思います。

※本記事は、スマホアプリ NEC Thanks Card に掲載した内容を転載しています。2024年5月は、アプリ用に執筆した記事で毎日更新しています。


タックマンモデル

タックマンモデルは、チーム状態を以下の4つの時期に分けて考えます。

図1.タックマンモデル

各期は、以下のようなチーム状態を表します。

  1. 形成期(Forming):メンバーが集められた段階。腹の探り合いや、抽象的議論に終始し、やることが見えない状態。タスクを定義し、手順を設定することが必要。

  2. 混乱期(Storming):やることは決まったが、メンバーが納得しておらず、反発している状態。達成不可能な目標などが原因。リーダーの秩序維持力が必要。

  3. 統一期(Norming):別名は規範期。目標共有、役割分担、権限と責任の範囲、ローカルルール(規範)が決まり、チームとして機能している状態。

  4. 機能期(Performing):仕事を楽しいと感じ、メンバーが協力的・民主的・効率的になっている状態。

タックマンモデルの4つの段階は、英語版サーベイ(Barkema, Moran, 2013)で調べることができます

参考:タックマンモデル・サーベイ
http://www.phf.org/resourcestools/Documents/Electronic_Tuckman.pdf

なお、チーム内での感謝が有効に働くのは、混乱期から統一期に移るときと推測できます。まず、感謝には「二人の間の信頼を高める効果」があると言われています(Algoe,2008; Aloge, 2012)。次に、信頼とは「自分が不利になる行動を相手は取らないだろうという期待」と定義できます(山岸,1995)。これを仕事環境に適用すると、信頼とは「自分の仕事に支障がでないように、相手も仕事をしてくれるであろう期待」と言えるでしょう。上記の説明によれば、このような期待ができた状態は、統一期に相当します。したがって、混乱期から統一期へ遷移するための信頼感の醸成に、チーム内で感謝をする施策が有効かもしれません。

拡張タックマンモデル

タックマンモデルは、よく考えると、チームが成功する場合だけをモデル化しています。しかし、多くの企業が経験しているように、いつもチームが成功するわけではありません。そこで、Andreatta (2018) は、チームが上手くいかない場合として、2つの時期を追加しました。これを、拡張タックマンモデルと呼ぶことにします。

図2.拡張タックマンモデル

追加されたのは、チームの混乱が収まらず、機能不全に陥っていくまでの、2つの時期です。

  1. 不満期(Bad Norming)悪いローカルルール(規範)が出来上がってしまった状態。例えば、「リーダーに逆らってはいけない」「技術が優れた人のプライドを気づ付けてはいけない」といったローカルルール。本人のいない場面で、愚痴だらけになる。

  2. 不全期(Dysfunction):機能不全を起こして、見下し、罵倒、侮辱といった言葉が飛び交っている状態。メンバーは、危険を恐れて知らないふり(関係の遮断)をしたり、自分を守るために反撃(防御反応)したりしている。学習性無力感が強まり、悪化するとうつのメンバーが増え始める。

不満期になってしまう主な原因は、混乱期におけるリーダーの対応にあるかもしれません。

例えば、リーダーが「いいから、言うことを聞け」と言ってしまったり、「上に言われたから仕方ない」と言い続けたり、メンバーの一人を贔屓し続けたりすると、メンバーが「この人には何を言っても無駄だ」と学習してしまい、そのようなローカルルールが出来上がってしまいます。

このようなネガティブなチーム状態では、チーム内で感謝をしたとしても、うまく機能しないと考えられます。なぜなら、たとえリーダーがメンバーに感謝をしたとしても、メンバーはその感謝を信じられないからです。「何か裏が合うのでは?」と勘繰ったり、「どうせ形だけだろう」と斜に構えてしまったりすることでしょう。そのため、不満期や不全期になってしまったら、感謝の前に、何か別の手を打たなければならないと考えられます。

タックマンモデルとエンゲージメント

私たちは、英語版サーベイ(Barkema, Moran, 2013)を翻訳し、不満期と不全期の項目を加えて、独自開発の組織エンゲージメント調査票(Yamamoto, et al., 2022)と合わせて、2019年に調査を行ったことがあります。

独自の組織エンゲージメント調査票については、下記でご紹介しています。

参考:組織エンゲージメント調査票
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/rd/thema/engagement/index.html

ここでは、みなさんのお役に立ちそうな調査結果を3つご紹介します。

形成期と混乱期には2種類あった

調査データに探索的因子分析をしてみると、実は、形成期と混乱期は2つの派閥に分かれることが判明しました。

図3.形成期と混乱期が2つに分離されるイメージ図。筆者作成、状態名は筆者が命名したもの。
  • 設計期・・・ゴール・役割・手順・タスクを設計し、チームを機能させようとする

  • 迷走期・・・議論を空中戦にし、助けを求めず、メンバーを監視しようとする

  • 秩序期・・・チームの秩序を維持しようとし、時間をかけずに計画を立てる

  • 対立期・・・多くの反発や拒絶を通して、議論ばかりしようとする

これらは、チームの中の派閥かもしれませんし、個人の意識の中の派閥かもしれません。しかしながら、データ分析からは、迷走期や対立期は、統一期や機能期へのつながらないことが分かりました。そのため、タックマンモデルに沿ってチームが成功するためには、形成期では設計期が、混乱期では秩序期が優勢である必要があると考えられます。

すなわち、初めは議論すること自体を目的とするのではなく、チーム設計(ゴール設定、役割設定、プロセス設定、タスク分割など)を目的として素早くチーム構築を行い、その秩序を維持するようにすると良いのかもしれません。

統一期と機能期はエンゲージメントが高い

組織エンゲージメント調査票 (Yamamoto, et al., 2022)では、仕事に対するエンゲージメントを「仕事の充実感」、組織に対するエンゲージメントを「組織への愛着」として調査しています。

タックマンモデルの状態別にエンゲージメントを計算してみると次のようになりました。縦軸は、1=「まったく当てはまらない」~7=「とても当てはまる」の回答の平均値を、0.000~1.000の範囲に正規化した値です。

図4.拡張タックマンモデルとエンゲージメント

予想通り、不全期や不満期ではエンゲージメントが低く、統一期や機能期ではエンゲージメントが高いという結果になりました。

形成期と混乱期の2つの派閥が、見事に高エンゲージメントと低エンゲージメントに分かれたのも面白いですね。形成期と混乱期は2つの派閥の合算値にすると、全体的には中くらいのスコアになります。

この結果を見ると、形成期の設計期と混乱期の秩序期をいかに増やしておくかが重要と言えるかもしれません。

チーム状態によって取り組むことが異なる

組織エンゲージメント調査票 (Yamamoto, et al., 2022)では、エンゲージメントに関わる仕事や職場や人間関係といった、エンゲージメント要因についても尋ねています。そこで、タックマンモデルの各状態とエンゲージメント要因の相関分析を行い、チーム状態に強く影響を与えるエンゲージメント要因を整理してみました(図5)。

図5.各チーム状態に関連するエンゲージメント要因

各エンゲージメント要因については、下記の弊社ウェブサイトで説明しています。

参考:組織エンゲージメント調査票の測定要因
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/rd/thema/engagement/factors.html

図4では、チームワークは全ての段階に影響があり、どの状態でも常に必要なことが分かります。チームワーク以外の要因については、チーム状態に応じて変化することが分かります。これは、次の段階へ進むために、取り組むべき事その順序を示していると考えられます。

この結果を参考にすると、各チーム状態で行うべき施策は次のように考えることができます。

  1. 形成期(設計):上司がメンバーの信頼を獲得し、仕事内容に納得してもらうように説明する

  2. 混乱期(秩序):公平に評価する方法を考え、実践する

  3. 統一期:メンバー同士の信頼感を醸成する

  4. 機能期:チーム内の風通しを良くする

ここでも、統一期には「信頼」の醸成が必要だという結果になりました。

まとめ

今回は、タックマンモデルとエンゲージメントとの関係について、私たちが調べて得られた知見をご紹介しました。

結果として、

  • 形成期と混乱期はそれぞれ2種類あること

  • 統一期や機能期は、他の状態よりもエンゲージメントが高いこと

  • 各状態では、取り組むべきことが異なること

が分かりました。

私たちの他の研究では、エンゲージメントが高いと主観的ウェルビーイングも高くなる傾向にあります。そのため、おそらく統一期や機能期はウェルビーイングも高いだろうと推測できます。

また、チーム内での感謝は、信頼形成が必要な混乱期から統一期に遷移するときに取り組むと効果的だろうという示唆が得られました。

筆者:山本

私たちの研究について
 研究開発 | NECソリューションイノベータ (nec-solutioninnovators.co.jp)

エンゲージメント研究
 組織エンゲージメント: 研究テーマ | NECソリューションイノベータ (nec-solutioninnovators.co.jp)

ご意見・ご感想・お問い合わせ
 NECソリューションイノベータ株式会社
 イノベーションラボラトリ
 ウェルビーイング経営デザイン研究チーム
 wb-research@mlsig.jp.nec.com

参考文献

  1. Tuckman, B. W. (1965). Developmental sequence in small groups. Psychological bulletin, 63(6), 384.
    https://psycnet.apa.org/journals/bul/63/6/384/

  2. Algoe, S. B., Haidt, J., & Gable, S. L. (2008). Beyond reciprocity: gratitude and relationships in everyday life. Emotion, 8(3), 425.
    https://psycnet.apa.org/journals/emo/8/3/425/

  3. Algoe, S. B. (2012). Find, remind, and bind: The functions of gratitude in everyday relationships. Social and personality psychology compass, 6(6), 455-469.
    https://compass.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1751-9004.2012.00439.x

  4. 山岸俊男. (1998). 信頼の構造. 東京大学出版会.
    https://www.utp.or.jp/book/b298848.html

  5. Andreatta, B. (2018). Wired to Connect. 7th Mind Publishing.
    https://www.brittandreatta.com/books/#WiredToConnect

  6. Barkema, E., & Moran, J. W. (2013). Scoring the Tuckman team maturity questionnaire electronically. no. October, 1-6.
    https://www.phf.org/resourcestools/Documents/Electronic_Tuckman.pdf

  7. Yamamoto, J. I., Fukui, T., Nishii, K., Kato, I., & Pham, Q. T. (2022). Digitalizing gratitude and building trust through technology in a post-COVID-19 world—report of a case from Japan. Journal of Open Innovation: Technology, Market, and Complexity, 8(1), 22.
    https://www.mdpi.com/2199-8531/8/1/22