【論文紹介】職場でのポジティブ心理学介入|介入手法の整理とメタ分析の結果
ウェルビーイングやエンゲージメントやその他の仕事のアウトカムを改善する介入方法が、ポジティブ心理学ではよく研究されています。今回は、Donalsonら(2019)による仕事のポジティブ心理学介入(PPIs=Positive Psychology Interventions)のメタ分析の結果についてお話ししたいと思います。なお、個人向けPPIsは、①自尊心介入、②感謝介入、③強み介入の3つです。
介入方法の種類
Donaldsonらによれば、職場に対するポジティブ心理学の介入方法は今のところ5つに整理できます。
心理資本介入
心理資本(PsyCap)とは、仕事の実践に不可欠なポジティブな心理状態のことで、4つの要素で構成されています。
自己効力感 困難な仕事でも成功できるという自信
楽観性 自分のキャリアや会社の将来についてのポジティブな帰属意識
希望 障害に直面しても仕事の目標に道を向ける力
レジリエンス 職場の不利な状況を跳ね返す力
心理資本介入は、以下のような仕事のアウトカムと関連しています。
職務遂行能力の向上
エンゲージメントの向上
組織市民行動の向上
ジョブ・クラフティング介入
ジョブ・クラフティングとは、従業員が自主的に仕事の要求と個人のニーズ、能力、強みの間の適合性を最適化することです。仕事の要求-資源理論(JD-Rモデル)に基づいて、次の3要素を変更して最適化します。
社会的仕事の資源(例:フィードバックやコーチング)
構造的仕事の資源(例:職場で成長する機会)
挑戦的仕事の要求(例:仕事量の削減、新しいプロジェクトの創設)
ジョブクラフティング介入によって、仕事をデザインし、コントロールできる従業員は、次のような効果が得られるとされています。
仕事の要求と個人の強みの最適な適合を生み出す
適応的パフォーマンス、ウェルビーイング、ワークエンゲージメントを向上させる
従業員へのストレングス介入
強み(ストレングス)とは、その人にとって自然な考え方や感じ方、あるいは行動パターンとして現れる測定可能な資質です。強みの測定は、次の2つが有名です。
Value in Action (VIA) セリグマンらが開発した性格特性的な強みを、24の資質で測定する
Clifton's Strength ギャラップ社が開発した行動特性的な強みを、34の資質で測定する
強みへの介入とは、仕事のやり方や物事の進め方を従業員個人の強みを発揮できる形に整え、さらにその強みを伸ばすように育成することです。この介入は、以下のような効果があるとされています。
従業員のウェルビーイングの向上
リーダーシップのアウトカムの向上
コーチングのアウトカムの向上
従業員への感謝介入
ポジティブ心理学でよく使われる個人を対象にした感謝介入には、次のようなものがあります。
Three good things 毎日3つの感謝を短い文で書き出す
感謝ジャーナル その日に感じた感謝を記録してく
感謝の手紙 特定の相手に感じた感謝を手紙にし、本人の前で音読する
個人の感謝介入の効果としては、次のようなものが確認されています。
感謝感度の向上
主観的ウェルビーイングの向上
自尊心の向上
加えて、職場でよく行われる感謝介入には、次のようなものがあります。
感謝カード 従業員が別の従業員に対する感謝をカードに書き、オフィスの壁に貼りだす
感謝メッセージ お客さんからの感謝の言葉を、オフィスの壁に貼りだす
効果としては次のようなものが想定されます。
人間関係の円滑化
支援行動の増加
仕事に対する誇りの向上
従業員へのウェルビーイング介入
セリグマンのウェルビーイング理論PERMA(=ポジティブ感情、エンゲージメント、関係性、意味、達成)に基づいた介入プログラムを実施する方法のことです。この介入は、次のような効果が確認されています。
欠勤(absenteesm)の減少
退職意図の減少
職務満足度の向上
結局、どの方法が良いの?
Donaldsonらは、55の研究から抽出された22の研究についてメタ分析を行い、全般的には次のような結果を得ています。
仕事のアウトカムに対して、小規模から中規模の効果を持つ(Hedges効果量g=.31, p<.001)
望ましい仕事のアウトカム(例:職務満足度など)への弱い効果を持つ(g=.25, p<.001)
望ましくない仕事のアウトカム(例:ストレスなど)への小規模から中程度の改善効果を持つ(g=-.34, p<.004)
望ましい仕事のアウトカムへの介入
上記の職場に対する各ポジティブ心理学介入は、望ましい仕事のアウトカムに対する効果量は次のようになりました。
心理資本介入(g=.21, p<.05)
ジョブ・クラフティング介入(g=.13, p<.10)
従業員へのストレングス介入(g=.35, p<.01)
従業員への感謝介入(g=.34, p<.001)
従業員へのウェルビーイング介入(g=.25, p<.01)
つまり、ストレングス介入と感謝介入は効果量.30以上となり中規模の効果があることが示されました。また、心理資本介入とウェルビーイング介入も小さな効果があることは示されました。
望ましくない仕事のアウトカムへの介入
職場に対するポジティブ心理学介入は、望ましくない仕事のアウトカムに対する効果量は次のようになりました。ただし、望ましくない仕事のアウトカムに対するジョブ・クラフティング介入とストレングス介入は、研究がそれぞれ1つしかなかったためメタ分析から除外されています。
心理資本介入(g=-.88, p<.05)
従業員への感謝介入(g=-.40, p<.10)
従業員へのウェルビーイング介入(g=-.17, p>.10)
つまり、望ましくない仕事のアウトカムに対しては、心理資本介入が絶大な効果を誇り、感謝介入がそれに次ぐ中規模な効果を持つことが分かりました。
まとめ
以上のことから、次のようなことが言えます。
職務満足度やエンゲージメントなどの仕事の良い指標を改善するなら、ストレングス介入か感謝介入が望ましい。
職場のストレスや退職率などの仕事の悪い指標を改善するなら、心理資本介入か感謝介入が望ましい。
筆者:山本
参考文献
Donaldson, S. I., Lee, J. Y., & Donaldson, S. I. (2019). Evaluating positive psychology interventions at work: A systematic review and meta-analysis. International Journal of Applied Positive Psychology, 4, 113-134.
https://www.scottdonaldsonphd.com/publication/ijpp/IJPP.pdf