【論文紹介】有害な職場環境を予防するには?−心理資本が職場毒性を予防する
有害で非生産的な職場環境を表す専門用語に「職場毒性(workplace toxic)」があります。図1のように、すでに多くの職場毒性が研究されています。組織に所属していると、思い当たるものが1つはあるのではないでしょうか?
職場毒性は、一度、組織の中に起こってしまうと改善が難しく、企業によっては致命傷になります。そのため、予防を考える必要があります。
これに対し、Sarkarら(2023)は、感謝がポジティブ心理資本を高め、ポジティブ心理資本が職場毒性に対する耐性をもたらすのではないかと考え、この仮説の検証を行っています。
今回は、感謝による職場毒性の予防の研究を紹介したいと思います。
調査方法
Sarkarら(2023)は、インドのデリー周辺のMBAの学生200名に質問票を送付し、有効回答を返送した150名(男性90名、女性60名)を対象として、感謝・心理資本・職場毒性のアンケート調査を行いました。MBAの学生なので、回答者は様々な業界の従業員でもあります。
感謝の測定には、GRAT-16尺度で測定しました。自己効力感・楽観性・希望・レジリエンスの4要素で表される心理資本は、提唱者Luthansが定義した12項目の尺度で測定しました。最後に、職場毒性には、職場のいじめ(NAQ-R)・職場の非礼(WIS)の2つを測定しました。
測定はGoogleフォームを使い、まず感謝と心理資本について測定し、3カ月後に職場毒性を測定しました。このように、測定に時間差を置くことで、原因が感謝・心理資本であり、結果が職場毒性であると、因果関係が定まるようにしました。
調査結果
相関分析
まず、感謝の気持ちは、心理資本の4つの次元(自己効力感・楽観性・希望・レジリエンス)と有意な正の相関があり、感謝が心理資本を強めるという仮説が支持されました。また、感謝の気持ちと職場のいじめ・職場の非礼には有意な負の相関がありました。
回帰分析
次に、Sarkarらは、感謝と心理資本を独立変数とし、職場毒性を従属変数とする回帰分析を行いました。その結果、感謝と心理資本は、職場いじめと職場の非礼をそれぞれ有意に予測することが確かめられました。
媒介分析
感謝が直接的に職場毒性に寄与する場合(直接効果)と、迂回要素として心理資本が存在する場合(間接効果)とを比較したところ、間接効果の感謝から職場毒性への寄与は、直接効果の寄与よりも低下しました。このことは、心理資本が、感謝と職場毒性の媒介要素になることを表します。すなわち、図2の仮説が成立すると言えたことになります。
まとめ
Sarkarらの研究によって、有害な職場環境(職場毒性)を予防するには、心理資本(PsyCap)を高めることが有効であろうという示唆が得られました。
そして、心理資本(PsyCap)を高めるために感謝が有効であろうという示唆もあり、結果として、職場で感謝の気持ち高めることは、組織に有害な職場環境への耐性もたらすだろうと言えました。
また、感謝の気持ちによって心理資本である自己効力感・楽観性・希望・レジリエンスが高まることを示したのは、実はこの研究が初めてでもあります。
もし、あなたが「有害な職場を予防したい」と考えるならば、日々の感謝を思い出す練習をすると良いかも知れません。
筆者:山本