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【論文紹介】集団による感謝行動の分類−共同的感謝と集合的感謝の違い

感謝の心理学研究では、主に個人が感じる感謝感情を研究対象とし、次のようなステップを想定しています。

  1. 感謝すべき状況に遭遇する(感謝生起状況

  2. 感謝すべきかどうか考える(感謝評価

  3. 感謝の感情が湧いてくる(感謝感情

  4. 感謝を言葉や動作で伝える(感謝表明行動

ここで、もし感謝表明行動を感謝と定義しなおすと、感謝感情は必ずしも必要ではありません。こうすると、「感謝感情はないまま感謝行動をする」という状況も感謝の一部と考えることができるようになります。

典型的な例は、組織やコミュニティといった集団が行う感謝行動です。例えば、とある製品の販売会社が、10周年感謝セールを行ったとしましょう。この場合、企業はお客様に対して10年存続できた感謝を伝えています。しかし、その企業の従業員は必ずしも感謝の感情を抱いているとは限りません。

このように考えて、感謝をする集団レベルで感謝行動を分類した研究がありましたので、これをご紹介したいと思います。

※本記事は、スマホアプリ NEC Thanks Card に掲載した内容を転載しています。
2024年5月は、アプリ用の執筆済み記事で毎日更新をしています。

感謝行動の分類

CockayneとSalter(2023)は、感謝行動を個人-集団を軸として次のように4種類に分類しました。

図1.感謝行動のタイプ

個人的感謝

個人的感謝は、心理学が対象とするような感謝感情に基づく感謝行動です。

この感謝行動は、自分が享受した親切や恩恵に対して、個人が独立して感謝を表明することを表しています。

集団文脈的感謝

集団文脈的感謝は、ある集団が享受した親切や恩恵に対して、集団の成員がそれぞれ独自に感謝を表明する感謝行動です。

集団の成員は、所属する集団が恩恵を受けたという文脈に基づいて感謝行動を起こしますが、その感謝行動は必ずしも同時に起こるとは限りません。

つまり、集団文脈的感謝では、感謝行動の非同時性が特徴の一つになっています。

たとえば、寄付を募る慈善団体の成員が寄付に対して感謝行動を起こすのは、寄付者と対面したときや各自の慈善事業が成功したときになるでしょう。これらは、全成員に同時に起こるとは限りません。

共同的感謝

共同(joint)という概念には、①共同注意(同時に同じものを見ている)、②共同行動(同時に同じ行動をしている)、③共同特性(同じ性質を持っている)の3つの意味があるそうです。

共同的感謝は、「同じ感謝の対象に注意を向け(共同注意)、感謝を感じ(感謝感情)、同時に感謝行動を行う(共同行動)こと」で、集団文脈的感謝との最大の違いは感謝行動の同時性にあります。

共同的感謝では、同時に同じ行動を行うことから、集団の成員間のつながりを強化することがあります。

一方で、集団内で同じ行動をすべきという雰囲気があると、感謝感情がなくても感謝行動をする場合があります。

集合的感謝

Cockayneらの集合的感謝(Collective Gratitude)は、社会心理学で使われる同名の概念とは別の概念で、組織やコミュニティによる組織的な感謝行動です。

前述の「10周年感謝セール」の例は、この集合的感謝に相当します。そこで、すでに言ったように、集団が感謝行動をしていても、集団の成員が感謝感情を持っているとは限りません。

また、集団を主体とするため、共同注意や共同行動といった集団レベルの現象は存在していません。

まとめ

上記の感謝行動の分類をまとめると、次の表のようになります。

表1.主体の個人-集団に基づく感謝行動の分類

このように、感謝感情と感謝行動は比較的容易に分離してしまい、感謝感情を伴わない感謝行動も簡単に行えてしまいます。

感謝感情を伴う感謝行動を「真の感謝行動」、感謝感情を伴わない感謝行動を「偽の感謝行動」とすると、感謝された人は感謝の真偽を評価しなければなりません。

感謝をされた人が、享受した感謝が「真の感謝である」と確信するためには、感謝の理由が重要になります。そのため、感謝をする時には、あなたが感謝している理由を具体的に書いた方がいいでしょう。

そうすれば、あなたの感謝がより伝わりやすくなるかもしれません。

筆者:山本

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