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【独自研究】なぜ、人数が増えると、顔が見えなくなるのか?-ダンバー数シミュレーション

よく、組織が大きくなると、メンバーを把握できなくなっていくと言われます。すると、コミュニケーションが少なくなり、疎遠になり、結果的にウェルビーイングを損なうかもしれません。

関係者が10人や20人なら、顔と名前が一致するだけでなく、人柄も分かったりします。でも、それが100人や200人になると、どうでしょう?全員の顔と名前が一致するかすら、怪しいですよね?

この人の認識が怪しくなってしまう限界値のことをダンバー数と言い、だいたい150人くらいだと言われています(Dunbar, 1992)。

でも、150人は少し多いような気がしませんか?

今回は、このダンバー数をコンピュータ・シミュレーションで再現し、150人以下になる場合の理由を考えてみます。

※本記事は、スマホアプリ NEC Thanks Card に掲載した内容を転載しています。


ダンバー数とは

ダンバー数は、人類学者ロビン・ダンバーの「霊長類の脳の大きさと群れの大きさに比例関係がある」(Dunbar, 1992)という発見から、人間の脳の大きさから推定される群れの大きさとして導き出されました。

ダンバー数とは、人間が安定的な社会関係を維持できるとされる人数の認知的な上限を指します。ここで言う社会関係とは、知り合いであり、今も交流のある関係のことです。そのため、旧知の仲でも、現在交流がない人は含みません。

これを言い換えると、記憶しているだけではだめで、すぐに思い出せる人でないといけません。つまり、忘れてしまうことが何か影響を与えていると考えられます。忘却の研究としては、エビングハウスの忘却曲線(Ebbinghaus, 1913)が有名です。

エビングハウスの忘却曲線によると、20分後であればすぐに思い出せたのに、1日後までに急激に思い出せなくなり、さらに時間が経つと思い出すのが少しずつ難しくなっていきます。

もしかすると、記憶のスピードと忘却のスピードのつり合いがダンバー数を生んでいるのではないでしょうか?

計算実験

この仮説は、次のように簡素化すると、エージェント・シミュレーションで確かめられます。

  • 人(=エージェント)iは、他人jについての記憶を持ち、その量を情報量Mijとする。

  • 人iと人jは、一定時間コミュニケーションすることで、情報量を蓄積(Mij=Mij+K, Mji=Mji+K)する。

  • 人iの他人jに関する情報量は、一定期間で自然減少(Mij=aMij, a<1)する。

  • 情報量Mijが閾値cより大きい時、人iと人jは社会関係にあるとする。

もし、ある人口Nで一定期間シミュレーションし、各エージェントの社会関係をカウント、エージェント間の最大値を計算すると、人口Nの時の社会関係の最大値が分かるはずです。

そして、様々な人口Nで、同様のシミュレーションを行えば、社会関係の最大値の人口依存性が見えることでしょう。

結果として、人口をどんなに増やしても、社会関係の最大値が一定値に近づくならば、社会関係には限界値(=ダンバー数)が存在することが分かります。

実験結果

シミュレーションの詳細設定は省略しますが、大まかには、会話形式を1対1の対話とし、ランダムに選ばれた相手と1時間対話する、という設定にしました。これを2年間繰り返すシミュレーションを、次の3種類の人々(エージェント)で計算してみました。

①完全記憶能力者&一睡もせずに対話し続けられる人(青線)
②1日で30%程忘れてしまう&一睡もせずに対話し続けられる人(オレンジ線)
③1日で30%程忘れてしまう&対話は1日4時間までの人(灰色線)

シミュレーションなので、あえて極端な設定をしています。灰色線が普通の人という設定です。

結果は、下図のようになりました。

ダンバー数のエージェントシミュレーション結果

オレンジ線と灰色線には、人口に対する社会関係の限界値、すなわちダンバー数が存在することが分かります。

青線とオレンジ線の差は忘却力の有無でしたので、オレンジ線のダンバー数は忘却によって発生したことが分かります。

オレンジ線と灰色線の差は1日の対話の時間の違いでしたので、灰色線の限界値がオレンジ線の限界値より低いのは、対話時間の制約によるものと分かります。

まとめ

結局、150人というのは人間の脳の限界値であって、普通の人はもっと低くなると言えそうです。その主な原因は、記憶の忘却とコミュニケーションできる時間の制約でした。

このシミュレーションを発展させれば、

  • 組織化するのに最適な人数はどれくらいのか?

  • どのくらいの頻度でコミュニケーションすればいいのか?

  • エージェントに個性を持たせたらどうなるのか?

  • コミュニケーションの質を上げたらどうなるのか?

などが示せるかもしれませんね。

筆者:山本

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参考文献

  1. Dunbar, R. I. (1992). Neocortex size as a constraint on group size in primates. Journal of human evolution, 22(6), 469-493.
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/004724849290081J