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ウェルビーイング研究

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ウェルビーイングに関連した研究の研究者による解説記事を集めています。ウェルビーイングをもう少し詳しく知りたい人に向けて、毎週金曜日に更新・追加していきます。
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2024年3月の記事一覧

個人的相対的剥奪感とウェルビーイング

はじめに今回の記事では、ウェルビーイング研究で有名な前野隆先生が共著となっている論文から「個人的相対的剥奪感」の研究についてご紹介します。 こちらの記事で、他人と自分を比較する「社会的比較」をご紹介しました。社会的比較はいくつかの次元に分けることができ、場合によっては私たちにポジティブな影響を及ぼすことが分かっています。 今回ご紹介する個人的相対的剥奪感は、他者と比較することで生じる感情のことであり、社会的比較の結果として引き起こされるネガティブ感情のひとつです。 まず

自己決定理論におけるウェルビーイング | 自律性・有能感・関係性の充足が私たちのウェルビーイングを高める

自己決定理論 (Self-Determination Theory; SDT) という理論をご存じでしょうか? 自己決定理論は、心理学者であるDeciとRyanが提唱した人間のモチベーションや人格発達に関する理論です。自己決定理論にもとづく、私たちのモチベーションや心理欲求の充足が、健康や幸福感、ユーダイモニアなどのウェルビーイングに関係するとした研究がされてきています。 自己決定理論は、人々がどのようにして自律的な行動(自己決定)をするかを理論化したものであり、教育や職

【論文紹介】自伝的記憶-思い出とウェルビーイング

「思い出」を思い出して幸せな気持ちになることは、多くの人が経験しているのではないでしょうか?そうだとすれば、記憶はウェルビーイングに関係している可能性が高そうです。 実際、記憶とウェルビーイングの研究を調べてみると、自伝的記憶(autobiographical memory)とウェルビーイングの関係を確かめた論文が見つかります。 最近の研究では、会話で自伝的記憶を思い出すときに共有現実(shared reality)を経験すると、心理的ウェルビーイングが向上することや(B

【論文紹介】感謝の8つの側面とその測り方

はじめに感謝はポジティブ感情のひとつです。ポジティブ感情には感謝以外にも様々なものがあり、例えばポジティブ感情とネガティブ感情を測定するPANASという尺度では、「活気のある」「誇らしい」「わくわくした」といった項目で評価されます。 そんなポジティブ感情のなかでも、感謝は他者との関わり合いの中で生じるものであるため、社会や組織の運営という観点で特に注目すべき感情であるといえるでしょう。 感謝の気持ちを抱いたり、その気持ちを伝えたりすることで、幸福感の向上、抑うつ状態の軽減と

【論文紹介】職場環境はウェルビーイング・生産性にどのような影響を与えるか

私たちのウェルビーイングについて考える上で、一日の中で多くの時間を過ごす職場におけるウェルビーイングについて考えることは避けては通れません。 様々な研究から、ウェルビーイングが高い従業員は、生産性が高く、欠勤率が低く、創造性やコミットメント、モチベーションが高い傾向にあることが示されており、企業としても従業員のウェルビーイングを考える重要性は高まりつつあります。 従業員のウェルビーイングを考える視点の一つとして、「職場環境」があります。物理的な職場環境が不十分であると、従