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ウェルビーイング研究

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ウェルビーイングに関連した研究の研究者による解説記事を集めています。ウェルビーイングをもう少し詳しく知りたい人に向けて、毎週金曜日に更新・追加していきます。
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#感謝

【論文紹介】ノスタルジーを感じてウェルビーイングに -感謝感情による媒介効果

みなさんは日常のふとした瞬間に、過去のことを思い出して懐かしさを覚えたり、心が温かくなるような経験をしたことはありますか? 今回は、そんな「ノスタルジー」を感じることと、感謝やウェルビーイング(幸福感)との関係を調べた研究についてご紹介します。 ノスタルジーの効果ノスタルジーとは、過去の出来事や人々について思い出したり、過去の自分について思い出すこと通して、懐かしさや切なさを感じることを意味します。ノスタルジーは結婚や誕生日、同窓会などの社会的なイベントをきっかけに感じる

【論文紹介】エピソードを記録してウェルビーイングに -エピソード記録が、欲求充足・感謝・セルフコンパッションに繋がる

近年、国内外で非常に注目されるウェルビーイングですが、WHOでは「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた(well-being)状態にあること」と言及されています。 なかでも、精神的なウェルビーイングは「幸福」や「充実」などと捉えられており、ポジティブ心理学を中心にウェルビーイング高める方法の研究がされています。 本記事では、エピソードを記録することを通して、ウェルビーイングの向上にアプロー

【論文紹介】SNSで感謝を閲覧すると幸福度が高まる? -Facebookを活用した感謝研究

みなさんはSNSを利用しているでしょうか? X (旧:Twitter), Facebook, Instagram, TikTokなど、SNSを1つ以上は利用しているという人が多いのではないかと思います。ほとんどのSNSでは、友人や知り合い、あるいは全く知らない人同士のやりとりを閲覧することができます。 以前、他者の感謝を目撃した人は、その感謝の送り手と受け手に対する心理にポジティブな影響があるという研究をご紹介しました。この「感謝の目撃効果」がSNSでも実現したとすれば、

感謝はウェルビーイングを高めるか? -日本人の感謝感情と負債感情

アメリカの研究では、「1日5個の感謝を記録することで、主観的ウェルビーイングが高まる」という実験結果が報告されています (Emmons & McCullough, 2003)。 一方で、日本人に対して同様の実験を行っても、ウェルビーイングが高まるという結果が得られないということが報告されています (相川ら, 2013)。 では、いったいなぜ、日本では感謝によってウェルビーイングが高まらないのでしょうか。 ウェルビーイング向上を邪魔する「申し訳なさ」日本人において感謝でウ

【研究紹介】愛情ホルモン「オキシトシン」の効果 -オキシトシンと向社会行動・感謝・ウェルビーイングの関係

みなさんは「オキシトシン」という神経伝達物質をご存知でしょうか? オキシトシンは、相手とのスキンシップや思いやり、信頼の感情などと関連していることから、"愛情ホルモン" や "信頼ホルモン" などと呼ばれています。感謝の気持ちを示したり、感謝を受け取った際には、脳からオキシトシンが分泌されること報告されています。 今回は、オキシトシンの分泌が幸福感や感謝の気持ち、向社会的な行動にどのような関係があるかを検証した研究についてご紹介したいと思います。 ビデオを用いたオキシト

【基礎知識】実存的感謝−苦しんだことへの感謝

人生の転機の話を聞くと、「大病を患い、死の危機に瀕した後、そこから回復したときに人生観が変わった」という人たちがいます。例えば、ある人は、今では謙虚で優しいですが、「昔は、威圧的だった」と言い、性格が180度変わってしまったそうです。このような体験をした人たちは、「今では、人生観が変わるほどの体験ができたことに感謝している」という発言をよくします。このように苦痛に満ちたネガティブな出来事を、ポジティブに自己統合する感謝のことを、実存的感謝と言うそうです。 今回は、実存的感謝

【論文紹介】有害な職場環境を予防するには?−心理資本が職場毒性を予防する

有害で非生産的な職場環境を表す専門用語に「職場毒性(workplace toxic)」があります。図1のように、すでに多くの職場毒性が研究されています。組織に所属していると、思い当たるものが1つはあるのではないでしょうか? 職場毒性は、一度、組織の中に起こってしまうと改善が難しく、企業によっては致命傷になります。そのため、予防を考える必要があります。 これに対し、Sarkarら(2023)は、感謝がポジティブ心理資本を高め、ポジティブ心理資本が職場毒性に対する耐性をもたら

【論文紹介】集団による感謝行動の分類−共同的感謝と集合的感謝の違い

感謝の心理学研究では、主に個人が感じる感謝感情を研究対象とし、次のようなステップを想定しています。 感謝すべき状況に遭遇する(感謝生起状況) 感謝すべきかどうか考える(感謝評価) 感謝の感情が湧いてくる(感謝感情) 感謝を言葉や動作で伝える(感謝表明行動) ここで、もし感謝表明行動を感謝と定義しなおすと、感謝感情は必ずしも必要ではありません。こうすると、「感謝感情はないまま感謝行動をする」という状況も感謝の一部と考えることができるようになります。 典型的な例は、組

【世界の感謝】ペルシアと感謝−母語による感謝表現の違い

同じ仕草であっても所属する文化が異なると、受け取り方が異なります。そのため、良かれと考えて行った行為が、まったく逆の意味に受け取られることがあります。だから、よりよいコミュニケーションのためには、相手の文化を知ることはとても重要です。 母語は文化に影響されるため、母語が異なると背景文化も大きく異なります。文化が異なると、感謝の表現の仕方も異なることは、外国人とコミュニケーションしたことがある人なら分かるのではないでしょうか。 ペルシア文化圏のイランでは、ペルシア語と中国語

【世界の感謝】マレーシアと感謝−日本人とよく似たマレー人

「感謝の感じ方は文化によって異なる」という研究がいくつか報告されています。 個人主義文化と集団主義文化特に、西欧では感謝は健康やウェルビーイングに有益であるという結果が多いのに対し、東洋では他者に感謝を示すことが義務として捉えられるとウェルビーイングを低下させることがあります。これは、個人主義文化と集団主義文化の違い、あるいはローコンテキスト文化とハイコンテキスト文化の違いとしてよく説明されます。 西欧の個人主義文化では、個人を重視し、個人的意見もどんどん言うことが奨励さ

【世界の感謝】19世紀の英国と感謝−感謝する奴隷の逸話

感謝が人種差別になるという話が意外すぎたので、文献(Burroughs, 2020)の内容を要約してみました。 エヨの物語1893年、船舶会社の取締役アルフレッド・ジョーンズは、英国の占領地ニジェールに住むエヨ・エクペニヨン・エヨ2世(13)から、「奴隷にされそうなので、償還してほしい」という懇願の手紙をもらいました。ジョーンズは、元宣教師のウィリアム・ヒューズが設立した教育訓練学校「コンゴハウス」にエヨを招きました。 コンゴハウスは、アフリカ人宣教師を英国で育て、アフリ

【論文紹介】感謝の目撃効果2−感謝を目撃した人は幸せになる

別の記事で、Algoe教授が2020年に発表した「感謝の目撃」の研究をご紹介しました。今回は、Walsh氏らによって2022年に発表された「感謝の目撃」の研究をご紹介します。 Algoe氏の研究では、感謝の目撃効果を援助行動などの「行動」で測定しており、「心理」への影響を測定していませんでした。そこで、Walsh氏らは、主観的ウェルビーイング(肯定的感情、人生満足度)などの心理指標への「感謝の目撃」の影響を実験的に確かめました。 送り手-受け手-目撃者フレームワーク(Ac

【論文紹介】感謝の目撃効果 -感謝を目撃した人が示す傾向

今回は、感謝に関する研究の第一人者のひとりであるAlgoe氏が2020年に発表した「感謝の目撃」に関する研究についてご紹介します。 感謝を目撃する第3者の存在これまでの心理学における感謝の研究では、 感謝した人(送り手)の内面における心理的効果 感謝された人(受け手)の内面における心理的効果 感謝した人(送り手)と感謝された人(受け手)の関係性における心理的効果 が中心的に研究されてきました。 しかし、Algoe et al. (2020) では、感謝を目撃した第

【独自研究】デジタル感謝とチームの信頼構築-感謝ネットワークが表すもの

みなさんは、チーム内の信頼感を目で視たことはありますか? 信頼感はチーム内で感じるものであって、普通は目で視ることはできません。 約9年間、私たちは、スマホアプリで感謝をデジタルデータ化し、そのデータが何を表すのかについて研究してきました。その結果、「感謝データのネットワーク構造の複雑さが、チームの信頼感を表している」という実証結果を得ました。 2022年、この結果について、論文発表しています(Yamamoto, et al., 2022)。 今回は、2022年の論文