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ウェルビーイング研究

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ウェルビーイングに関連した研究の研究者による解説記事を集めています。ウェルビーイングをもう少し詳しく知りたい人に向けて、毎週金曜日に更新・追加していきます。
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#研究

食事とウェルビーイング | ウェルビーイングを高める食事とは?

1990年代後半に提唱されたポジティブ心理学は幸福や満足感、強みなどに焦点を当て、人間の心理的な繁栄を目指した研究が推進されてきました。感謝やマインドフルネス、強みなど、さまざまなアプローチから、私たちのウェルビーイングを向上させるための介入方法が検討されてきました。 近年では、食に関する要因がウェルビーイングに高めるという新たなパターンが発見され、ポジティブ心理学領域において食品や食習慣などに着目した研究が増加しています。食事が身体的な健康だけでなく、精神的な側面において

Emotional Intelligence (EI・EQ) | リーダシップやウェルビーイングへの影響

みなさんは「Emotional Intelligence (EIまたはEQ, 感情知能) 」という概念をご存じでしょうか? EIとは、簡単に言えば「自分や他者の感情状態を認識し、上手く活用する能力」のことです。EIの概念自体は20~30年前から提唱され、欧米のビジネスシーンを中心に活用が進められていますが、ここ数年でEIはさらに注目を集めています。 EIは、私たちの日常生活や職場において、どのような影響を与えるでしょうか?心理学などを中心に、EIの効果を示す研究結果が示さ

【論文紹介】ノスタルジーを感じてウェルビーイングに -感謝感情による媒介効果

みなさんは日常のふとした瞬間に、過去のことを思い出して懐かしさを覚えたり、心が温かくなるような経験をしたことはありますか? 今回は、そんな「ノスタルジー」を感じることと、感謝やウェルビーイング(幸福感)との関係を調べた研究についてご紹介します。 ノスタルジーの効果ノスタルジーとは、過去の出来事や人々について思い出したり、過去の自分について思い出すこと通して、懐かしさや切なさを感じることを意味します。ノスタルジーは結婚や誕生日、同窓会などの社会的なイベントをきっかけに感じる

【論文紹介】エピソードを記録してウェルビーイングに -エピソード記録が、欲求充足・感謝・セルフコンパッションに繋がる

近年、国内外で非常に注目されるウェルビーイングですが、WHOでは「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた(well-being)状態にあること」と言及されています。 なかでも、精神的なウェルビーイングは「幸福」や「充実」などと捉えられており、ポジティブ心理学を中心にウェルビーイング高める方法の研究がされています。 本記事では、エピソードを記録することを通して、ウェルビーイングの向上にアプロー

【論文紹介】SNSで感謝を閲覧すると幸福度が高まる? -Facebookを活用した感謝研究

みなさんはSNSを利用しているでしょうか? X (旧:Twitter), Facebook, Instagram, TikTokなど、SNSを1つ以上は利用しているという人が多いのではないかと思います。ほとんどのSNSでは、友人や知り合い、あるいは全く知らない人同士のやりとりを閲覧することができます。 以前、他者の感謝を目撃した人は、その感謝の送り手と受け手に対する心理にポジティブな影響があるという研究をご紹介しました。この「感謝の目撃効果」がSNSでも実現したとすれば、

感謝はウェルビーイングを高めるか? -日本人の感謝感情と負債感情

アメリカの研究では、「1日5個の感謝を記録することで、主観的ウェルビーイングが高まる」という実験結果が報告されています (Emmons & McCullough, 2003)。 一方で、日本人に対して同様の実験を行っても、ウェルビーイングが高まるという結果が得られないということが報告されています (相川ら, 2013)。 では、いったいなぜ、日本では感謝によってウェルビーイングが高まらないのでしょうか。 ウェルビーイング向上を邪魔する「申し訳なさ」日本人において感謝でウ

【研究紹介】愛情ホルモン「オキシトシン」の効果 -オキシトシンと向社会行動・感謝・ウェルビーイングの関係

みなさんは「オキシトシン」という神経伝達物質をご存知でしょうか? オキシトシンは、相手とのスキンシップや思いやり、信頼の感情などと関連していることから、"愛情ホルモン" や "信頼ホルモン" などと呼ばれています。感謝の気持ちを示したり、感謝を受け取った際には、脳からオキシトシンが分泌されること報告されています。 今回は、オキシトシンの分泌が幸福感や感謝の気持ち、向社会的な行動にどのような関係があるかを検証した研究についてご紹介したいと思います。 ビデオを用いたオキシト

【論文紹介】感謝の目撃効果 -感謝を目撃した人が示す傾向

今回は、感謝に関する研究の第一人者のひとりであるAlgoe氏が2020年に発表した「感謝の目撃」に関する研究についてご紹介します。 感謝を目撃する第3者の存在これまでの心理学における感謝の研究では、 感謝した人(送り手)の内面における心理的効果 感謝された人(受け手)の内面における心理的効果 感謝した人(送り手)と感謝された人(受け手)の関係性における心理的効果 が中心的に研究されてきました。 しかし、Algoe et al. (2020) では、感謝を目撃した第

【論文紹介】職場環境はウェルビーイング・生産性にどのような影響を与えるか

私たちのウェルビーイングについて考える上で、一日の中で多くの時間を過ごす職場におけるウェルビーイングについて考えることは避けては通れません。 様々な研究から、ウェルビーイングが高い従業員は、生産性が高く、欠勤率が低く、創造性やコミットメント、モチベーションが高い傾向にあることが示されており、企業としても従業員のウェルビーイングを考える重要性は高まりつつあります。 従業員のウェルビーイングを考える視点の一つとして、「職場環境」があります。物理的な職場環境が不十分であると、従

人と動物との関わりにおけるウェルビーイング ~愛情ホルモン「オキシトシン」に着目した研究紹介~

はじめにペットを飼っている方の中には、「飼い犬と暮らしているおかげで健康でいられる気がする」、「飼い猫と触れ合っていると癒される」といったように、ペットとの関わり合いが自身にポジティブな影響をもたらしている感覚がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。 かくいう筆者も、犬猫のように触れ合える生き物ではありませんがペットを飼っており、ペットと関わることで幸福度が高まっているように感じています。 こういった幸福感には、“愛情ホルモン”や“幸福ホルモン”などと呼ばれることのある

集団の中で広がる感謝「集合的感謝」の効果とは?

はじめに本記事のテーマは「感謝」です。 “感謝”という言葉を辞書で調べると、「ありがたいと思う気持ちを表すこと。また、その気持ち。」と書かれています。つまり、感謝とは、「ありがとう」という言葉だけを示すのではなく、何らかに対して「ありがたい」と感じる気持ちも含まれています。 そんな感謝は私たちにどんな効果をもたらすのか、ポジティブ心理学の観点での基礎知識や、近年の論文からご紹介していきます。 感謝の研究ご紹介近年注目をあつめる“感謝” 先ほど辞書的な意味での感謝をご紹

【論文紹介】知恵 (wisdom) | 知恵は私たちのウェルビーイングを高めるか?

みなさん、「知恵」という言葉に対して、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか? 一般に、知恵というものは年齢、あるいは人生経験を積み重ねる中で培われるものと考えられる傾向にあります。また、「生活の知恵」などのように、日常のちょっとした工夫に対して「知恵」ということもあります。さらに、仏教の文脈では「真理をみきわめる心の作用」として「智慧」という言葉が用いられています。 辞書で「知恵」の意味を調べてみると、「物事の道理を判断し処理していく心の働き。物事の筋道を立て、計画

2023年のウェルビーイングに関する研究TOP10 | Greater Good Scinece Centerの発表

2023年は首相の所信表明演説において、「ウェルビーイング」が初めて言及されたことなど、日本国内においてウェルビーイングが大きく注目を集め始めた年と言えると思います。世界的に見ても、ウェルビーイングに関連する研究は増加傾向にあります。 では、この2023年のウェルビーイングに関する研究のなかで、どのような発見があったのでしょうか? ウェルビーイング関連の研究を行うカリフォルニア大学バークレー校のGreater Good Science Centerは、先日『The Top

どんなところに暮らすか?ウェルビーイングな住環境を考える。

はじめに今回のテーマは「住環境とウェルビーイング」です。 前半では、住環境とウェルビーイングについて、「世界・大人」の視点でご紹介します。後半では、「日本・子供・通学」という観点から、論文の情報をもとにご紹介します。 [今回のポイント] 通勤は幸福度にネガティブな影響を与える。 生活満足度に対する住宅の広さによる影響はほとんどない。 大気汚染や騒音は幸福度にとって重要な要素である。 日本の子供の心身の健康は通学状況と関係がある 住環境とウェルビーイングでは、「We