休暇中の過ごし方とウェルビーイング ~どんな風に過ごすとウェルビーイングが高まるか~
早いもので2023年も残すところわずかとなりました。
本年は私たちの記事をご覧いただきありがとうございました。
8月に開始した私たちのnoteは、本記事で20記事目となります。(自己紹介記事を除く)
ウェルビーイングに関する基礎知識や、みなさんにぜひご覧になっていただきたい情報がかなりまとまってきたと思います。年末年始のお供としてもご覧いただけたら幸いです。
さて、年末年始は、長めに休暇を取得してゆっくり過ごす、ご家族や友人と会う、地元の行事に参加するといった方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、休暇にまつわる以下のトピックに関する論文や研究報告の内容をご紹介していきます。みなさまの年末年始のウェルビーイングの一助となれば幸いです。
休暇中の他者との交流とウェルビーイング
まずは休暇中の他者との交流とウェルビーイングの関係に関する論文の内容をご紹介します。
労働者は職場において様々なストレスにさらされ、精神的健康に大きな影響を受けています。しかし実際は、職場での人間関係や環境だけではなく、個人を取り巻く様々な要素からも影響を受けています。
そのような職場外での影響を考慮するために必要な観点のひとつが「余暇」です。「余暇」の定義は様々ですが、以降は「仕事から離れ、仕事以外のことに従事できる自由時間」と定義して考えてきます。
余暇が日常のストレスを軽減する手段の一つであることは、様々な研究で確認されています。
余暇は、心身の休息や身体活動の機会となるだけではなく、生きていくのに必要な心理社会的資源を獲得したり、家族や友人との接触による精神的な回復効果をもたらすのです。
心理社会的資源とは、人々が自己の内外に持っている様々な資源を指します。人が問題を解決したり、逆境に対して適応的な反応をするために活用されます。内的な資源としては、自己効力感といった心理的なものが挙げられ、外的な資源としては、制度や財力などが挙げられます。
先行研究では、余暇時間の総量や、余暇にどのような活動を行っているか(例えば、趣味やスポーツなど)といったことが、重要な指標であるといわれています。また、余暇を誰と過ごすかという視点も、個人の生活の質を大きく左右しうるとの指摘もあります。
すなわち、ただ余暇をとるだけではなく、どのように余暇を過ごすのかということが、個人にとって価値のある余暇になるかどうかを決めるのです。
そこで今回ご紹介する研究では、「どのような余暇を過ごすのか」という視点の中でも「他者との交流や会話」に着目し、それらが個人の幸福感や抑うつにどのような影響を与えるのかを検討しています。
調査は日本人の成人を対象に行われました。一か月間のうちの休日や祝日を余暇と捉え、その余暇に誰と過ごしたか、他者との交流や会話はどの程度であったかをアンケートで測定しました。また、個人の主観的幸福感と、ストレス反応としての抑うつ状態を測定しました。主観的幸福感はSubjective Happiness Scaleを用い、抑うつ状態はThe Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(以下、CES-D)の日本語版を用いました。
CES-Dは探索的因子分析により「抑うつ気分」「身体的愁訴」「疎外感」「ポジティブ気分」の4つの構成要素に分けられました。
では、分析結果を見ていきます。
「家族・友人との交流」、「他者との会話」は女性の方が有意に高い結果となりましたが、それ以外について性別による差は認められませんでした。
また、男性では、「家族・友人との交流」について、「主観的幸福感」、「ポジティブ気分」との間に中程度の正の相関がみられました。一方、女性について、「家族・友人との交流」について、「主観的幸福感」、「ポジティブ気分」との間に有意な相関はみられませんでした。
続いて、「余暇の過ごし方が主観的幸福感を介して、抑うつの構成要素に影響を与える」というモデルを作成し、検証した検証しました。分析の結果、適合度が高かったモデルは以下の通りです。
男女ともに、「主観的幸福感」は「ポジティブ感情」に正の影響を与え、「抑うつ気分」「身体的愁訴」「疎外感」に負の影響を与えていることが確認されました。また、「家族・友人との交流」と「他者との会話」は、「主観的幸福感」に正の影響を与えていました。
しかし、「家族・友人との交流」から「主観的幸福感」につながるのは、男性のみでした。
このような結果となった理由として、女性の方が男性より抑うつ傾向が高い傾向があり、こういった要因が影響を及ぼしていることが考えられます。
これまでの結果をまとめます。
「家族・友人との交流」「他者との会話」といった余暇の過ごし方が、「主観的幸福感」を介して、抑うつを軽減する
参考:
川久保惇, & 小口孝司. (2015). 余暇における他者との交流が主観的幸福感および抑うつに及ぼす影響. ストレス科学研究, 30, 69-76.
地元のお祭りへの参加とウェルビーイング
みなさんは「ソーシャルキャピタル」ということばをご存じでしょうか?
ソーシャルキャピタルとは、大まかにいうと“人々の関係性やつながりを資源として捉える概念”です。
政府や自治体といったパブリックな領域、友人や近所の人といった個人にとって身近なコミュニティに関する領域など、様々な範囲での検討がなされています。
例えば、地域社会という範囲において、地域の人々のソーシャルキャピタルを豊かにすることで、地震や津波などの災害が生じた際に、人々の避難や助け合いといった良い効果をもたらすのではないか、といったようなことが検討されます。
ソーシャルキャピタルは、個人の主観的幸福感にも関係があるといわれています。そのため、幸福に関する世界的な調査においては、国ごとに「地域社会との関わりの度合い」に関わる項目がたいてい含まれています。
ソーシャルキャピタルを強化するのは「コミュニティ関与」です。コミュニティ関与には様々な手段が挙げられますが、“地元コミュニティのお祭りに参加すること”もそのひとつとして考えられます。先行研究にて、お祭りへの参加や、それによるコミュニティ活性化が、地域資源を構築し、社会的結束を強め、生活の質を向上することにつながると報告されています。
今回ご紹介する研究では、ソーシャルキャピタルのもたらす結果として主観的幸福感に着目し、地元のお祭りに参加することが、主観的幸福感に対するソーシャルキャピタルの効果を媒介するのか、といったことを検討しています。
調査は韓国において行われ、ソーシャルキャピタルやお祭りへの参加に関するアンケートの他、韓国で実施された社会調査のなかからデータを用いました。ソーシャルキャピタルについては、「構造的ソーシャルキャピタル(他者との交流頻度や付き合いの程度)」と「認知的ソーシャルキャピタル(他者への信頼)」に分けて、それぞれ測定しました。以下がその集計結果です。
次に、ソーシャルキャピタルとお祭りへの参加が幸福度と生活満足度に及ぼす影響を分析しました。
構造的ソーシャルキャピタルのうち、「家族や親戚との交流」「近隣住民との交流の割合」が、幸福度と有意に関係がありました。また、認知的ソーシャルキャピタルについては、全ての項目が幸福感と有意に関係がありました。
一方、生活満足度については、構造的ソーシャルキャピタルと有意な関係を示しませんでした。認知的ソーシャルキャピタルについては、有意な関係が見られました。
また、お祭りへの参加については、幸福感および生活満足度の両方に有意な関係が見られました。つまり、コミュニティのお祭りへの参加は、主観的な幸福感と関連しているようです。
続いて、ソーシャルキャピタルと幸福の関係性における、お祭りへの参加の媒介効果を確認しました。
構造的ソーシャルキャピタルの「近隣住民との交流の割合」について、媒介効果が最も高くなっていました。総効果のうちなんと32.61%が媒介変数(お祭りへの参加)によるものでした。
「家族・親族との交流」については、全体のうち18.58%が媒介変数(お祭りへの参加)によるものでした。
すなわち、お祭りへの参加は、ソーシャルキャピタルと幸福の関係を媒介しており、それもかなり高い効果があるといえるでしょう。
生活満足度においても同様の結果が得られ、全体の約7.28~12.96%が媒介変数(お祭りへの参加)によるものであるという結果が得られました。
結果をまとめると、以下の通りになります。
地元のお祭りに参加する人の方が、まったく参加しない人よりも主観的幸福感が高い
ソーシャルキャピタルとお祭りへの参加は、主観的幸福感にプラスの影響をもたらす
ソーシャルキャピタルのなかでも、認知的ソーシャルキャピタルの方が幸福感と強く関係している
ソーシャルキャピタルと主観的幸福感の関係をお祭りへの参加が媒介している
参考:
Ahn, Y. J. (2021). Do informal social ties and local festival participation relate to subjective well-being?. International Journal of Environmental Research and Public Health, 18(1), 16.
冬休み中の旅行とウェルビーイング
最後に、冬休み中の活動としての旅行とウェルビーイングに関する論文の内容をご紹介します。
余暇が日常のストレスを軽減する手段の一つであることは、前述のとおりです。
そのような中、就業中のストレスによって損なわれた心理社会的資源を元の水準に戻す活動について、「リカバリー経験」と呼ばれています。リカバリー経験には、「心理的距離」「リラックス」「熟達」「コントロール」の4種類があるといわれています。
日本における調査では、休暇中のリカバリー経験が従業員の創造性を促進し、幸福度や生活満足度を向上するといった結果が報告されています。特に「熟達」が最も影響力が強く、日本人は休暇中に新しいスキルを身に着けたり、知識を得るような経験を重視しているのではないかと推察されます。
こういった休暇のリカバリー経験となると考えられている休暇の過ごし方のひとつとして「旅行」が挙げられます。職場との物理的な距離をとるという観点から、特に「心理的距離」が満たされると考えられます。
また、旅行をすることは精神的健康に有益であると考えられています。
旅行は消費活動(お金を使うこと)と捉えられますが、ものではなく経験にお金を費やす「体験的な購入」をしていると解釈できます。体験的な購入は、物質的な購入よりも幸福感に対しポジティブな影響をもたらすといった研究結果があります。そういったことからも、旅行という体験的な購入が、幸福感をもたらしている可能性が考えられるのです。しかし、旅行にかかる費用と幸福感の関係ははっきりしておらず、旅行にお金をかければかけるほど幸福感が高まるのか、といったことは分かっていませんでした。
以上のような観点から、旅行と幸福感の関係や費やした金額との関係、リカバリー経験のうち「心理的距離」や「熟達」の効果について検討するための調査が行われました。
調査は長期休暇である冬休み前後(旅行前・旅行直後・旅行1か月後)にアンケートで行われました。
調査対象者は、各々の冬休みの過ごし方から「海外旅行グループ」「国内旅行グループ」「帰省グループ」「家で過ごすグループ」に分けられ、旅行にかかった費用についても調査されました。
また、リカバリー経験スケール、人生満足度、PERMA得点を用いた測定を行いました。
分析の結果、冬休みに旅行をした人は目的地が海外・国内を問わず、旅行をしなかった人に比べて幸福度が高いという結果になりました。幸福度が高いタイミングとしては、旅行前が最も高いという結果になりました。
続いて、旅費と幸福度の関係についてです。
旅行に費やした金額について分析したところ、回答者の50%が年収の約2.33%を冬休みの旅行に費やしていました。世帯年収を考慮したうえで幸福度との関係を分析しましたが、どのタイミングにおいても、有意な関係は認められず、旅行に費やした金額と幸福度の関係はみられませんでした。
次に、リカバリー経験に関する分析結果です。
冬休みの過ごし方による効果が有意であることが示されました。リカバリー経験のうち「コントロール」については、冬休みの過ごし方による有意な差は見られませんでした。
回帰分析の結果では、年齢や世帯収入、学歴が旅行者の幸福に大きな影響を与えていました。さらに、冬休み中のリカバリー経験による影響を分析すると、「熟達」のみ大きな影響を与えていました。
以上の結果をまとめます。
長期休暇中に日常生活から離れ非日常を体験することで、旅行者の幸福度が向上した
海外旅行者と国内旅行者の幸福度は、自宅で過ごした旅行者よりも高い
旅行にかかる費用は幸福度と関係がない
幸福度は旅行直後から低下し、長続きしない
リカバリー経験のうち「熟達」が最も重要である
参考:
Kawakubo Atsushi, Oguchi Takashi. (2022). What Promotes the Happiness of Vacationers? A Focus on Vacation Experiences for Japanese People During Winter Vacation. Frontiers in Sports and Active Living. 4.
おわりに
今回は休暇にまつわるウェルビーイングについてご紹介しました。
休暇は単に身体を休めるだけではなく、人と触れ合う、地元のお祭りへ参加する、旅行をする、自己研鑽するといった行動を通じて、ウェルビーイングに寄与します。
年末年始を機に、休暇の過ごし方についても少し考えてみると良いかもしれません。
では、少し早いですが皆様良いお年をお過ごしください。
この記事を書いたのは私です。
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