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【基礎知識】人間関係を構築・維持する方法|黙示録の四騎士とサウンド・リレーションシップ・ハウス理論

PERMA理論やSPIRE理論の「R(relationship)」や、心理的ウェルビーイングの6要素の1つが「積極的な他者関係(positive relationship)」などから分かるように、ウェルビーイングには人間関係が欠かせません。(詳細は、以下の記事を参照してください)

今日、よく参照される人間関係の基盤的な研究の1つに、J. Gottmanの研究があります。Gottmanは、恋人同士や夫婦を対象にして、その関係性の変化(構築・維持・崩壊)を20年以上追跡調査しており、大きな成果の1つには離婚予測因子の発見があります。また、恋人療法(couple therapy)や家族療法(family therapy)の臨床経験に基づいてサウンド・リレーション・ハウス理論(Sound Relationship House Theory)という関係構築の理論を作り上げました。

参考:Gottmanのウェブサイト


Gottmanの研究は、恋人や夫婦といった親密な関係に関する研究ですが、友人関係や同僚関係、あるいは上司部下関係にも応用できる部分はあることでしょう。

そこで、今回は主にGottman(2008, 2017)を参考として、Gottmanの研究を紹介してみようと思います。


離婚の予測因子

Gottman(2017)によれば、離婚には、結婚から平均16.2年後に離婚する長期型と、平均5.6年で離婚する短期型が存在します。

長期型の特徴は、二人の間のポジティブ感情とネガティブ感情の両方が少ないことです。悲しみや軽い怒りがあっても、ほとんどの場合、冷淡で無関心な関係になります(Gottman, 2017)。結婚生活は、ネガティブ感情の少なさから長続きしますが、ポジティブ感情の少なさから離婚に至るようです。

短期型の特徴は、二人の間のネガティブ感情がポジティブ感情を圧倒してしまうことです。すると、ネガティブ感情の底なし沼にはまっていき、「黙示録の四騎士」(Gottman, 2017)と呼ばれる関係破壊行動にまでエスカレートしてしまいます。関係性が破壊されてしまうため、結婚生活が短期で終わってしまうようです。


黙示録の四騎士

Gottmanらの研究によれば、人間関係の「達人」(幸せな関係を保っているカップル)と「災難」(不幸だが関係を維持しているカップル)では、対立中のポジティブ感情Pとネガティブ感情Nの秒数の比率P/Nは、「達人」がP/N=5なのに対し、「災難」はP/N=0.8でした。つまり、良好な人間関係には、ネガティブ感情よりもポジティブ感情の量が5倍以上多いことが必要だと考えられます。

反対に、ネガティブ感情の方は、量よりも種類の方が離婚に影響し、カップルの対立中に現れた「黙示録の四騎士」が、離婚の兆候を示す最良の予測因子でした(Gottman, 2017)。四騎士とは、以下のような行動です(Gottman, 2008)。

(騎士1)批判(Criticism)
問題を相手の欠点として述べること。「あなたは~」で始まる非難。

例:「あなたは自分勝手ね。いつも自分のことしか考えていない。」(避難型)

(騎士2)防衛(Defensiveness)
泣き言(無邪気な被害者のスタンス)や反撃(憤怒のスタンス)で自己防衛を図ること。

例:「お前だって自分のことしか考えていないだろう!」(反撃型)

(騎士3)軽蔑(Contempt)
優越的な立場からなされる皮肉、侮辱、罵倒、もっと微妙なもの(相手が怒っている場合の語句訂正など)

例:「私はいいのよ。あなたより稼いでいるもの。」(皮肉型)

(騎士4)断絶(Stonewalling)
相手に対して感情的に心を閉じること。無関心、無視、拒絶、逃避、遠慮など。

例:「もういい!お前のことなんか知らない!」(拒絶型)

特に、「軽蔑」は関係破壊の最も強い予測因子です。人間関係の「達人」たちは、他の3つは弱いレベルで言うことはあっても、「軽蔑」だけはめったに言いません(Gottman, 2008)。なお、例文は、会話の中の発言順に例示していますが、必ずしも四騎士が順番に出現するわけではありません。また、これらは会話の話題とは無関係だったそうです。


解毒剤

「黙示録の四騎士」には、次のような対策が提示されています(Gottman, 2008)。

(騎士1)批判(Criticism)の対策
感情を「私は~」で始まる文で表現し、穏やかな形で苦情を言う。

例:「私は腹が立っているわ。もっと私の話を聞いてほしいの。」

(騎士2)防衛(Defensiveness)の対策
問題のほんの一部でもいいから、責任をとる(認める)。

例:「そうだね。私は、あなたの話をちゃんと聞けていなかった。」

(騎士3)軽蔑(Contempt)の対策
軽蔑を即停止し、相互の尊敬を生み出す。そのために、感謝の気持ちを表現する。

例:「いえ、あなたが忙しいことは知っているわ。いつもありがとう。」

(騎士4)断絶(Stonewalling)の対策
感情的にかかわり続けるために、興奮状態を自己鎮静化する。パートナーがなだめる。

例:フォーカシング、瞑想、パートナーへの積極的な質問、バイオフィードバック等

しかし、このような関係性を破壊する因子への対策はあるものの、これだけを行えば問題が起きないというわけではありません。

Gottmanは、臨床的なセラピーを通して、関係性を修復していく方法を、サウンド・リレーションシップ・ハウス理論(SRH理論)としてまとめています。


サウンド・リレーションシップ・ハウス理論

Gottman(2008)によれば、大前提として、カップル間の対立(conflict)は69%が永久に続くそうです。例えば、研究に協力したあるカップルは、4年後に再度インタビューをすると、4年前とほぼ同じ問題について話していました。このような対立はパーソナリティや根源的なニーズの違いから生じていて、決して解決できるものではありません。

ところが、上手くいっているカップルでは、多少の苛立ちがありつつも、対話をし続けることで、関係性を永続させていました。このことから、ほとんどの人間関係の対立は解決不能で、解決するのではなく対話によって建設的に対立を永続させることこそが重要であると、Gottmanらは考えました。

このような前提の下、Gottmanらが科学的な研究とセラピーの臨床経験をもとに良好な人間関係を構築する7つステップをまとめたのが、SRH理論です。(図1)

図 1 サウンド・リレーションシップ・ハウス理論の模式図、Gottman(2017)を参考に筆者作成

SRH理論では、人間関係を構築・維持するために、図1の下層から順に実施していくことを提唱しています。SRH理論の最初の3要素は、親密さ(friendship)の主要な部分を表し、意見が対立したときの人の在り方に影響を与え、関係修復の基礎となります(Gottman, 2017)。親密さの3要素が整っていない状態で4層目を実施しても、全く効果がありません。

Gottmanらは、研究を始めた当初から、その日の出来事について話し合っている間のポジティブ感情の量から、対立の話し合いの性質に親密さが本質的に関わっていることを見抜いていたと言っています(Gottman, 2017)。


ステップ1:相手の世界を知る

Gottmanは、第一ステップを「愛の地図(Love map)を知る」と表現していますが、愛の地図とは相手の内面世界のロードマップをことと定義しています(Gottman, 2017)。ほとんどの対立が解決しないのは、パーソナリティの違いによって自分と相手の見ている内面世界が異なるためです。そこで、相手の内面世界がどうなっているのかを知ることが、人間関係構築の第一歩になるということでしょう。

Gottmanら(2001)は、Panksepp(1998)の全ての哺乳類に共通する明確な行動パターンと神経生理学的パターンを持つ7つの感情システムをもとに「感情コマンドシステム」を提唱し、さらに環境要因としてメタ感情(一次感情に先立つ感情)も併せて、愛の地図を描くガイドを考案しました(図2)。

図 2 メタ感情と感情コマンドシステム、Gottman (2008)を参考に筆者作成

7つの感情システムは、それぞれが連動して機能します。例えば、「衛兵」「巣を作る人」「最高司令官」が一緒に採用されると、潜在的に獰猛な子供を守る存在となります。また、メタ感情の違いから、同じ出来事でも個人によって反応するシステムが異なります。そのため、個人の感情的反応が千差万別となっており、これらが多様な情動反応の基盤を形成しています(Gottman, 2008)。

解決できない対立の原因であったパーソナリティの不一致は、図2ではメタ感情の不一致に相当します。メタ感情が不一致だと、感情の理由(例:なぜ怒るのか)が分かりません。そして、このような無理解はネガティブ感情を増幅させ、人間関係を崩壊させることがあります。これに対して、人間関係の達人は、メタ感情の不一致があったとしても、人間関係を良好に維持しています。Gottmanらの観察によれば、達人は、対立に対して調和的に共存する方法を見出していると言います(Gottman, 2008)。

Gottmanらのカップル・セラピーでは、オーラル・ヒストリー・インタビュー尺度を使って、各個人の感情コマンドシステムからメタ感情を明らかに、互いに見せ合って治療目標について話し合うという方法を用います(Gottman, 2008)。

ステップ2:好意と賞賛を共有する

GottmanやPankseppの研究によると、カップルがメタ感情の不一致に対処するには、ネガティブな感情を抑制することと、ポジティブな感情を創出または強化することが必要です。

軽いネガティブな感情は、簡単にエスカレートしてしまいます。下記は、Gottman(2008)に示された例です。

妻:笑わないで欲しいけど、あなたが時間通りに起きてくれないから、毎朝遅刻するの(不満)。
夫:(悲しい声色、目を合わせないようにして)ああ、笑っちゃいけないね。誰かのせいで遅刻する気持ちは分かるよ。
妻:あら、どんな気持ちなのか分かるの?(怒り)
夫:ああ、どんな感じなのかなんとなく分かるよ。
妻:(嘲り、軽蔑して)なんとなく分かる、なんとなく分かるのね。
  (激しく怒って)少しは、私に敬意を示したら?

Gottman(2008)

この例では、妻の怒りが嘲笑と軽蔑(これは、四騎士の1つ)にエスカレートしています。このように、ネガティブ感情がエスカレートし、黙示録の四騎士が出現している場合には、前述の解毒剤による対処を真っ先に行う必要があります。

エスカレートしてしまったネガティブ感情を抑えることができたら、次にポジティブ感情を生み出す必要があります。相手に軽いネガティブ感情(例:不満)がある場合は、ポジティブ感情を生み出すために「ただただ、”はい”と言う」という方法があります(Gottman, 2008)。これは、Levenson & Gottman(1985)の「苦情を提示されたときに、中立的に”はい”というだけの対応は、実質的にポジティブな対応になっている」という発見に基づいています。ここで、”はい”は、同意を伝える言葉や非言語行動(例:頷く)、あるいは”はい”の他の言い方(例:「そうだね」「わかった」「なるほど」など)でも構いません(Gottman, 2008)。

さらに、Gottmanのセラピーでは、ネガティブな発言の後に、その相手からポジティブな発言を5つ続くように要求しているそうです(Gottman, 2008)。この方法は、ポジティブ感情がネガティブ感情を相殺することと、人間関係の達人はネガティブ発言の5倍のポジティブ発言をしていたことに由来しています。ここでのポジティブな発言とは、「これまで明言されていなかった感謝」などです。

このようにして、相手の良いところを探す習慣を身に着け、相手の資質を称賛し、尊敬を伝えることで、ネガティブ感情を抑制しポジティブ感情を強化する好意と賞賛のシステムを育む必要があります。


ステップ3:背を向けずに相手に向く

Driver & Gottman(2004)は、600時間以上ものビデオの分析を通じて、感情的なつながりのための「入札(bids)」(相手の注意を引こうとする言語・非言語的な試み。会話、交流、熱意、ユーモア、愛情、遊び心、感情的支援など)という行動が、6年後まで離婚しなかったカップルと6年後には離婚していたカップルで異なるのかを評価しました。その結果、離婚しなかったカップルは、結婚1年目に86%の確率で入札によって感情的つながりを互いに求めていたのに対し、離婚していたカップルは33%の確率でしか感情的つながりを求めていませんでした(Gottman, 2008)。すなわち、良好な人間関係には、感情的なつながりを求めて、お互いに相手の方を向く(お互いに入札する)ことが必要だと考えられます。

図 3 感情的つながりの階層、Gottman(2008)をもとに筆者作成。

また、Gottman(2008)によれば、感情的つながりには階層性があり(図3)、入札を相互に繰り返していくことで、より上位の階層を求めるようになるそうです。感情的つながりの階層が低い段階で、背を向けること(無反応、否定的反応)は破壊的です。新婚夫婦を対象に、相手に背を向けられた後に、再度入札する確率を測定したところ、幸福度の低い新婚夫婦は0%、幸福度の高い新婚夫婦でも22%ほどしかありませんでした。すなわち、特に、人間関係の初期段階では背を向けないこと入札を繰り返し行うことが必要でしょう。

ここで重要なのは、入札しても相手が振り向かない可能性もあることです。そのため、自分が振り向く以上に大切なのは、相手がどうすれば「こっちを向きたい」と思うかを理解することです。そのためには、「相手の世界を知る」ことが必要になります。また、ネガティブ感情が強いと、そもそも入札に気づいてもらえません。そこで、ネガティブ感情を相殺するように「好意と賞賛を共有する」ポジティブ・フィードバックをした方が良いでしょう。入札は、相手の入札を誘発するため、最初のポジティブ・フィードバックは些細な事でかまいません。

こうして、ステップ1~3は、相互に連携して機能することになります。


ステップ4:ポジティブな視点

前述の通り、人間関係の達人はネガティブ感情の5倍のポジティブ感情を持つのに対し、上手くいっていないカップルではポジティブ感情がネガティブ感情の0.8倍しかありませんでした。このようになる理由として、感情のオーバーライド現象が起きていると考えられます(Gottman, 2017)。

感情のオーバーライドとは、ポジティブ感情優位な状態がネガティブな出来事も中立的に捉え、反対にネガティブ感情優位な状態ではポジティブな出来事も否定的に捉えてしまうことです。例えば、ポジティブ優位な状態だと、相手の否定的な言動も単に「ストレスを感じているんだなぁ」と受け止めることができます。しかし、ネガティブ優位な状態だと、相手が関係を修復しようとしても否定的に捉えてしまい、反撃によって関係をさらに悪化させ、「黙示録の四騎士」にエスカレートしてしまいます。実際、ある研究では、不幸なカップルは客観的な観察者が見ている肯定的な出来事の50%を見ていないそうです(Gottman, 2017)。

このことは、対立によって悪化した関係を修復するには、事前の感情オーバーライド状態をポジティブ優位にしておく必要があることを示しています。一方、Gottmanらは、感情オーバーライド状態は親密さの3要素によって制御されるとしています。すなわち、親密さの3要素が感情オーバーライドをコントロールし、感情オーバーライドが関係性修復をコントロールする、という関係があることが分かります(図4)。

図 4 感情オーバーライドによる制御、筆者作成

このようにして、ポジティブな視点を維持することが、次のステップの入り口になります。


ステップ5:建設的に対立を管理する

Gottman(2017)は、永続的な対立の69%は解決不能なので、解決ではなく管理(manage)することを推奨しています。対立の管理では、対立のネガティブな側面だけではなく、ポジティブな側面も注目する必要があります。しかし、前述のネガティブな感情オーバーライド状態になると、対立のポジティブな側面が見えなくなります。そのため、対立を管理するには、なるべく落ち着いた状態になる必要があります。Gottmanは、言い争いをしている場合は、落ち着いた状態になるために、長めの休憩をはさむことを推奨しています。

そうして、次に、対立を建設的に管理するための方法として、2つの方法を提唱しています(Gottman, 2017)。

説得の延期
この方法では、二人は、交互に話し手と聞き手になり、相手を満足させるまで、対話を続けます。この時、話し手は、否定への過敏さを下げ、「攻撃防御モード」から「自己開示モード」になっている必要があります。これは、攻撃してくる相手に共感できる人はほとんどいないためです。そして、話し手は自分の気持ちや、ポジティブ・ニーズ(「欲しくないもの」ではなく「欲しいもの」)について話し、聞き手はメモを取るだけで説得は行わないようにします。

過去の対立
この方法では、二人に起きた過去の対立を5つのステップで振り返ることで、対立が生じた理由の理解を促します。具体的には、過去の残念な対立について、(a)自分たちが抱いていた感情、(b)各自の主観的な現実、(c)絶対に合わないこと、(d)責任の取り方と謝罪、(e)建設的な計画、について話し合います。ただし、実施するには2つの条件があり、一つは二人が冷静なときだけ話すこと、もう一つは残念な出来事には必ず両面があることを双方が合意していることです。


ステップ6:人生の夢をかなえる

対立を冷静に管理できるようになったら、より関係性を強化することができるようになります。

Gottmanは、次の一歩として「対立の中の夢」という介入方法を考案しています。この方法は、対立の膠着状態にある二人を対話状態に移行させるための方法です。膠着状態は、各人が頭では妥協すればいいと理解していても、心ではどうしても妥協できないといった状態です。このとき、それぞれ自分の大切な何かを失う気がするため、なかなか相手に妥協できなくなっています。しかし、この状態は、裏を返せば、各人に「譲れない想い=夢」があることを示しています。

そこで、「対立の中の夢」では、まずパートナーはそれぞれの立場の背後にある物語や夢、願いを話してもらいます。そして、なぜその夢が中心的なのか、その問題に対する人生の夢は何なのかについて話し合います。人間関係の達人は、何年もかけて、それぞれの立場の中にある夢を明らかにし、それについて語り合っているそうです(Gottman, 2008)。

対立には根源的な個人の夢が隠されています。人間は、誰しも意味を求め、冒険を求め、遊び心を求め、人生に意味を与え、生きがいとなるような個人的な夢を叶えようとします。そのため、自分の夢、価値観、信念、願望を正直に語り、その関係が人生の夢を支えていると感じられるような雰囲気を作ることが、より良い人間関係には必要になります。(Gottman, 2017)


ステップ7:意味を共有する

お互いの隠された夢を明らかにし、語り合うことができるようになったら、人生における共通の目的共通の意味を創り出します。Gottman(2008)では、共有された意味を創り出す方法として、3つの方法を例示しています。

つながりの儀式
この方法は、カップルや家族、あるいはコミュニティの中だけの意味を持った行動(儀式)を創り出すという方法です。儀式には、公式のものと非公式のものがあります。非公式の儀式の例としては、「夕食の時間は、全員がその日にあった出来事を話す」というものがあります。一方、公式の儀式の例としては、誕生日、結婚記念日、入学式、卒業式、結婚式、葬式などが該当します。(Gottman, 2008)

人生の役割
この方法は、カップルや家族が、人生における役割を分担することで、お互いの人生を支え合うという意味を創り出す方法です。例えば、父親と母親、家事と仕事、親と子、兄と弟、など家庭に関わる役割があります。他にも、社会的な役割(政治家、起業家、教師など)も関係するかもしれません。(Gottman, 2008)

人生の目標
この方法は、カップルや家族が、パートナーや家族あるいは自分自身のための目標を設定することで意味を創り出す方法です。例えば、家族の目標(例、戸建て購入)のために、計画を立て、生活を管理し、労力を分配して、チームとして協力することは、家族としての意味が生まれていると考えられます。(Gottman, 2008)

最も親密な人間関係である結婚は、共に人生を築くことでもあり、目的と意味を共有する人生のことでもあります(Gottman, 2017)。これは、主観的ウェルビーイングのような一時的な幸福を求めることではなく、心理的ウェルビーイングのような実存的な幸福(≒人生の目的)を二人で共有することに近いでしょう。


壁1:信頼を築く

SRH理論の家には、2つの壁があり、その1つは信頼です。信頼とは、簡単に言うと「相手が自分を裏切ることはない」という信念のことで、カップルの場合には「私があなたを必要とするときに、あなたはそばにいてくれますか?」(Gottman, 2017)といった尺度で測ることができます。

信頼がSRH理論に組み込まれているのは、信頼関係の構築が「感情(特に怒りや悲しみ)を冷静に相手に話すことができる」(=Attunement)という変数と相関関係にあることが発見されたためです(Yoshimoto, 2005)。つまり、信頼関係は、感情をコントロールし、対立をエスカレートさせないという効果があると考えられます。

壁2:コミットメントを築く

コミットメントは、もう1つの壁です。結婚におけるコミットメントとは、パートナーとの関係と他の潜在的な関係に広い垣根を設けることです(Gottman, 2017)。もっと簡単に言えば、パートナーをかけがえのない存在として決断することです。

Gottmanらの研究では、パートナーを大切にし、その存在への感謝を育み、パートナーの欠点を最小限に抑え、パートナーの肯定的な資質を最大限に引き出すことが、コミットメントを構築するプロセスの一部だと言います。また、これと真逆に扱うと、裏切りを構築するプロセスの一部となります。


まとめ

この記事では、人間関係構築の基礎知識として、Gottmanの研究の概要を紹介しました。Gottmanは恋人や夫婦の恋愛関係を研究対象としていましたが、研究結果はその他の人間関係にも参考になるのではないでしょうか?

例えば、職場の上司部下関係で、上司が部下に全く信用されていない場合を考えてみましょう。この時、上司が良いことをしたとしても、部下には「自分の評価のためじゃないの」などと疑われてしまうことがあるかもしれません。これは、ネガティブ感情優位な感情オーバーライド状態に相当します。すなわち、親密さの3要素と信頼の壁が出来上がっていない状態です。

この場合、もし黙示録の四騎士(批判・防衛・軽蔑・断絶)が現れていれば、その行動を即刻停止する必要があります。次に、SRH理論によれば、上司はまず①部下の内面世界(メタ感情)を知る、②部下の資質を称賛する、③部下に関心を持ち、振り向いてもらうためのポジティブ・フィードバックをする、といった行動をとる必要があるでしょう。これにより、④感情オーバーライド状態がポジティブ優位になれば、⑤対立する部分を冷静に話し合う、⑥部下の夢を聞き自分や会社の夢を語る、⑦部下と自分と会社の夢を共有し、共通目標を見出す、といった順序で人間関係を構築していくと良さそうです。

今回は、セラピスト向けの論文を参考にしたため、定性的な記述が多いですが、Gottmanは、神経科学、生理化学、心理学、ゲーム理論、数学を使った定量的な研究を行っています。特に、Gottmanの最初の大きな成果である離婚予測は、生理化学などの測定結果をパラメータとして数学的に定式化されています(Gottman, et al., 1999)。つまり、社会学的なテーマですが、自然科学的なアプローチをとっているため、再現性が高く、予測精度が高い結果が得られています。


執筆:山本

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