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【基礎知識】VIAの強みとウェルビーイングの関係

以前の記事で、職場へのポジティブ心理学介入をご紹介しました。その中で、「強み」に基づいたストレングス介入があることを簡単に説明しました。そして、有名な強みの測定方法には、VIA (Value In Action)Clifton’s Strengthsがあることもご紹介しました。

今回は、VIAに基づくストレングス介入の原点となった研究を2つほどご紹介したいと思います。

VIAは、VIA Institute on Characterにアカウントを作成すると無料で測定することができます。VIAを測定すると24個の性格的強みの順位を無料で見ることができます。ただし、測定結果に基づくレポートは、簡易レポートも完全レポートも有料です。

VIA Institute on Characterでは、VIA-IS (Value In Action, Inventory of Strengths) という240項目の調査票を使って24個の性格的強み特性を測定します。

もっと簡易的に日本語で測定したい場合には、Shimai & Urata(2023)が開発した24項目の調査票CST-24 (Character Strengths Test 24) を用いても良いかもしれません。


VIAとは?

Park, Peterson & Seligman (2004) によれば、ポジティブ心理学が目指す「最も価値のある人生」に影響を及ぼす肯定的な性格特性として、「VIA強み分類」が開発されました。Parkらは、「これらの特性は、道徳的卓越性へ向かう素質を選択した進化の過程を通じて生物学に根差し、種の存続に重要な働きをした」と考えていました。

「VIA強み分類」は、PetersonとSeligmanの検討の結果として、次のような考え方で開発されました。

○ 性格的強みとは、「判断力の行使を伴い、認識可能な人間的卓越性や人間的繁栄の事例につながる、行動、欲求、感情に対する気質」である。

○ 性格的強みは複数存在し、良い性格は肯定的特性の族(ファミリー)として構成されている。

○ 性格的強みは、(無意識的または反射的な)自動的行動を起こすものではない。むしろ、徳のある行動とは、自らのために正当な人生設計に照らして美徳選択することである。それは、人々が自分自身の人格の長所を振り返り、それを他者に語ることができることを意味する。

○ 性格的強みは、表1の判定基準で、才能や能力といった個人差と区別できる個人差である。

Park, et al. (2004)
表 1 VIA強み分類で使用された判定基準。Park, et al. (2004) を参考にして、筆者が作成。基準名は、筆者が説明に適した名前に一部変更している。

このような基準を適用することで、24個の性格的強みが特定されました(表2)。

表 2 VIAで分類された24個の性格的強み、Park, et al. (2004), Rush, et al. (2010), Shimai & Urata (2023)を参考に筆者作成。

強みの名称は、族(ファミリー)を代表する名前で、いくつかの類義語や同義語が存在します。例えば、「審美心」は「畏敬」「驚き」「高揚」を含み、「希望」は「楽観主義」「未来志向」「純粋志向」などを含みます。


性格的強みと人生満足度

Parkら(2004)は、①性格的強みの一部が他の強みよりも人生満足度と高い相関を示すか、②性格的強みを高めすぎるとウェルビーイングが低下するのか、を調べるためにアンケート調査を実施しました。表1によれば、強みの判定基準の1つは「充実感、満足感、幸福感に貢献すること」なので、①の人生満足度との関連が考えられます。一方、②は、「強すぎる勇気は無鉄砲になりかねない」といったように、高すぎる強みはウェルビーイングにマイナスの影響がある可能性が考えられました。

調査方法

Parkらは、インターネットで募集した成人ボランティアの下記の3サンプル(平均年齢35~40歳、女性70%、米国民80%)を対象に、性格的強み尺度VIA-IS・人生満足度尺度SWLS(Scale With Life Satisfaction)に回答してもらいました。参加者には、VIA-ISは5段階のリッカート尺度で、SWLSは7段階のリッカート尺度で回答を求めました。

  • サンプル1(n=3,907):Authentic Happinessサイトで募集

  • サンプル2(n=852):Value in Actionサイトで募集

  • サンプル3(n=540):Value in Actionサイトで募集

※人生満足度尺度についての詳細は、下記の記事をご参照ください。

調査結果

Parkらは、①を確かめるために、VIA-ISとSWLSの偏相関分析を行いました。VIA-ISは、尺度得点と順位得点の2通りのデータで計算しました。順位得点は、24個の強みを尺度得点が大きい順に並べてランキングを作成し、順位の番号を得点(第1位=1点、第2位2=2点、・・・、第24位=24点)としたものです。そのため、尺度得点が大きいほど、順位得点は小さくなります。各サンプルの偏相関分析の結果は、表3にまとめています。

表 3 VIA-ISとSWLSの偏相関分析、Park, et al. (2004)を参考に筆者作成。「値」は得点による偏相関を表し、「順位」は順位得点(1=最高順位~24=最低順位)による偏相関を表す。年齢、性別、国籍は統制されている。

結果として、3サンプルで尺度得点と順位得点の両方が人生満足度と大きく関連していたのは、「希望」「熱意」「感謝心」「好奇心」「親密性」でした。尺度得点の偏相関だけであれば、「見通し」や「勤勉性」も人生満足度と比較的大きな関連(r>.30)があります。

逆に、人生満足度と弱い関連しかなかったのは、「謙虚」「独創性」「審美心」「判断力」「向学心」でした。これには、「思慮深さ」も含めてもいいかもしれません。

これにより、①に対して、性格的強みの一部(「希望」「熱意」「感謝心」「好奇心」「親密性」)は、他の強み(「謙虚」「独創性」「審美心」「判断力」「向学心」)よりも、人生満足度と高い相関を示すことが確認されました。

一方、②に対して、Parkらは様々な検定を行いましたが、高すぎる強みがウェルビーイングを低下させるという証拠は見つかりませんでした。しかしながら、「希望」と「熱意」が著しく低い集団は、人生満足度も著しく低いという結果は得られました。


性格的強みと幸福志向性

上記の研究で性格的強みの一部と人生満足度に弱い関連しか発見できなかったParkやPetersonらは、人生満足度以外のウェルビーイングを測定する「幸福志向性尺度(OHS: Orientation to Happiness Scale)」を開発し(Peterson, et al., 2005)、VIA-ISとSWLS+OHSの関係を明らかにしました(Peterson, et al., 2007)。

幸福志向性尺度

OHS(Peterson, et al., 2005)は、人生満足度以外のウェルビーイングの3つの志向性を測定するために開発されました。3つの志向性とは、以下の通りです。

  • 快楽(pleasure)…へドニア。快を最大化し、苦痛を最小化する志向性。

  • エンゲージメント…フロー。感情や意識が失われるほど活動に集中する志向性。

  • 意味(meaning)…ユーダイモニア。自分の美徳を見極め培い、それに従って生きる志向性。

これら3つの志向性は、表4のような項目で測定されます。

表 4 幸福志向性尺度(OHS)の機械翻訳。Peterson, et al. (2005)を参考に筆者作成。

※へドニアやユーダイモニアについては、下記の記事をご参照ください。

※フローについては、下記の記事の一部で言及しています。


調査方法

参加者は、米国とスイスで、成人を対象として集められました。

米国では、Seligmanが運営するAuthentic Happinessウェブサイトに12,439名(女性71%、典型年齢40歳、大学卒66%)が登録し、登録者は自分で選んだ尺度(英語版のみ)に回答しました。

一方、スイスでは、チラシを見て応募した者や、心理学部の学生、シニアクラブの会員を対象とした445名(女性61%、典型年齢50歳、大学卒41%)に、アンケート用紙(ドイツ語)を配布・郵送・訪問して、直接記入してもらいました。

調査では、VIA-ISとOHSとSWLSが心理尺度として用いられました。


調査結果

ウェルビーイング志向性の比較

まず、人生満足度尺度と幸福志向性尺度の米国-スイス比較(図1)によれば、人生満足度はスイスの方が有意に高く意味(ユーダイモニア)のウェルビーイングは米国のほうが有意に大きくなりました。喜び・快楽とエンゲージメントへの志向性では、二国間に差は見られませんでした。

図 1 米国とスイスのウェルビーイングの志向性の違い、Peterson, et al. (2007)を参考に筆者作成


ウェルビーイング志向性と性格的強みの関係

次に、Petersonらは、ウェルビーイングの志向性と性格的強みとの関係を調べました。表5は、VIAの24個と性格的強みとウェルビーイングの4つの志向性の偏相関分析の結果です。

表 5 米国(N=12,439)とスイス(N=445)の性格的強みとウェルビーイングの偏相関分析。Peterson, et al. (2007)を参考に筆者作成。

米国サンプルにおける人生満足度は、「熱意」「希望」「親密性」「感謝心」「好奇心」との偏相関が大きく、Park et al. (2004)の結果を再現できたと言えます。しかし、スイスのサンプルでは、米国のサンプルと比較して、人生満足度と「感謝心」の相関が低く、代わりに「勤勉性」との相関が高くなっていました。

喜び・快楽への志向性に最も影響が大きい性格的強みは「ユーモア」でした。エンゲージメントの志向性には、「熱意」「希望」「好奇心」「勤勉性」が強く関連していました。意味の志向性に対しては、「精神性」が強く関連していました。

また、人生満足度とは弱い関連しかなかった知的な強み(「判断力」「向学心」「審美心」「独創性」)エンゲージメントや意味の志向性との相関が、人生満足度に比べて2~3倍大きいことが分かりました。


ウェルビーイング志向性と性格的強みのパス解析

Petersonらは、最後に、24の性格的強みすべてからウェルビーイング志向性(SWLS+OHS)へのパス、および3つ志向性(喜び・快楽、エンゲージメント、意味)から人生満足度へのパスについて、回帰分析を実施しました。図2は、最も頑健性の高かったパスモデルです。

図 2 パス図。図中の数値は標準化β係数。年齢等は省略し、係数が0.10以上のパスのみを示す。Peterson, et al. (2007)を参考に筆者作成。

図2からは、各志向性に影響する性格的強みが、それぞれ異なることが分かります。喜び・快楽の志向性には「ユーモア」「審美心」「希望」が正の影響を与え、「精神性」が負の影響を与えます。一方、意味の志向性には「精神性」と「見通し」が正の影響を及ぼします。エンゲージメントには、「熱意」「勤勉性」「好奇心」「独創性」が影響し、人生満足度には「熱意」「親密性」「感謝心」「希望」が影響します。これらは、表5の結果とおおよそ整合しています。

また、図2からは、人生満足度に対して、意味やエンゲージメントの志向性は影響があるものの、喜び・快楽の志向性はほとんど影響がないことが分かります。もともと、主観的ウェルビーイングは、認知的ウェルビーイングと感情的ウェルビーイングに分けられ、前者として人生満足度が、後者としてポジティブ感情とネガティブ感情が測定されます。喜び・快楽という志向性は、感情的な定義から明らかに感情的ウェルビーイングに作用すると考えられます。そのため、認知的な人生満足度には、喜び・快楽の志向性はほとんど影響がないのでしょう。

Petersonら(2007)の文中では、性格的強み(特に「感謝心」「親密性」)の人生満足度への直接的効果に対して、3つの志向性を媒介変数とする媒介分析を行ったことが言及されています。しかし、残念ながら、3つの志向性の媒介効果は、部分的にしか確認できなかったそうです。このことから、3つの志向性では、性格的強みが人生満足度と関連する理由を説明しつくせていないことが示唆されています。


まとめ

今回は、VIA強み分類の24個の性格的強みとウェルビーイングとの関連に関する初期の研究を2つご紹介しました。これらの研究の後、VIA-ISは各国の言語に翻訳され、様々な国々で信頼性と妥当性の検討が行われています。

また、これらの研究に基づいて、強みとウェルビーイングの関係に基づいた「強みに基づく介入」や「強みに基づく心理療法」の研究が行われるようになっています。最新の研究については、また別の記事でご紹介したいと思います。

今回のご紹介した2つの研究によれば、性格的強みの「希望」「熱意」「感謝心」「好奇心」「親密性」が高い人ほど人生満足度が高いことが示唆されています。これは、これらの性格的強みを高めれば、人生満足度が高まることを示しています。例えば、「感謝心」とウェルビーイングの関係については、下記の記事をご覧ください。

ただし、米国で人生満足度と相関が強かった「感謝心」は、スイスでは人生満足度との相関が弱くなっていたため、「感謝心」は文化に依存している可能性があります。感謝と文化の違いについては、下記のようないくつかの記事があります。

人生満足度と相関が低かった「謙虚」「独創性」「審美心」「判断力」「向学心」のうち、「審美心」は喜び・快楽の志向性に、「独創性」はエンゲージメントの志向性に影響がありました。「判断力」や「向学心」も、偏相関係数でみれば、人生満足度よりもエンゲージメントや意味の志向性に強く関連していました。

このことから、「独創性」「審美心」「判断力」「向学心」は、人生満足度とは別のウェルビーイングに関連していると考えた方が良いのかもしれません。「独創性」族の1つである「創造性」とウェルビーイングの関係については、下記の記事があります。

一方、「謙虚」は、4つのウェルビーイング志向性とは関連がありませんでした。もしかすると、「謙虚」によって高まるまた別のウェルビーイングがあるのかもしれません。謙虚については、下記の記事が参考になるかもしれません。

ちなみに、山本のVIA第一位は「向学心」です。確かに、SWLSは「どちらとも言えない」付近を選びがちです…。

執筆:山本

弊社の研究について
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/rd/thema/index.html

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イノベーションラボラトリ
ウェルビーイング経営デザイン研究チーム
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参考文献

  1. Shimai, S., & Urata, Y. (2023). Development and validation of the Character Strengths Test 24 (CST24): a brief measure of 24 character strengths. BMC psychology, 11(1), 238.
    https://link.springer.com/article/10.1186/s40359-023-01280-6

  2. Park, N., Peterson, C., & Seligman, M. E. (2004). Strengths of character and well-being. Journal of social and Clinical Psychology, 23(5), 603-619.
    https://guilfordjournals.com/doi/abs/10.1521/jscp.23.5.603.50748

  3. Ruch, W., Proyer, R. T., Harzer, C., Park, N., Peterson, C., & Seligman, M. E. (2010). Values in action inventory of strengths (VIA-IS). Journal of individual differences.
    https://econtent.hogrefe.com/doi/abs/10.1027/1614-0001/a000022?journalCode=jid

  4. Peterson, C., Ruch, W., Beermann, U., Park, N., & Seligman, M. E. (2007). Strengths of character, orientations to happiness, and life satisfaction. The journal of positive psychology, 2(3), 149-156.
    https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/17439760701228938

  5. Peterson, C., Park, N., & Seligman, M. E. (2005). Orientations to happiness and life satisfaction: The full life versus the empty life. Journal of happiness studies, 6, 25-41.
    https://link.springer.com/article/10.1007/s10902-004-1278-z