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2024年のウェルビーイング記事まとめ|NECソリューションイノベータ

2024年も、もう少しで終わりますね。

今年、私たちはウェルビーイングや感謝に関する記事を93件投稿してきました。記事の内容は少し難しいものだったかもしれません。これは、狙ってそうしていました。

ここ数年で、ウェルビーイングという言葉はよく聞かれるようになり、それにともない「ウェルビーイングとは?」といった入門的な文章は、ウェブサイトを検索すると簡単に見つかります。

その一方で、論文検索を用いれば、専門的なウェルビーイングに関する論文も数多く見つけることができます。しかし、研究者でもない限り、専門的な論文を読むことは苦労されることでしょう。

ところが、入門と専門の間をつなぐような記事は、なかなか見つかりません。

そこで、私たちは、専門的な論文をある程度噛み砕き、入門の次のステップになるような記事をお届けしようと考えていました。そのため、内容はやや専門的になっていました。

今回は、今年、私たちが執筆してきたウェルビーイングに関する記事を、1年間の振り返りとして簡単に紹介していきたいと思います。


ウェルビーイングの基礎

ウェルビーイングは、直訳すると「良い状態」となります。しかし、「良い状態」ではものすごく汎用的な言葉であるため、「○○ウェルビーイング」とその対象を付記して表現されることが多いです。

ウェルビーイングの定義

私たちが、主に扱ってきたのは、心理学におけるウェルビーイングで、詳しく知りたい方は以下のウェルビーイングの定義に関する記事をご覧ください。


ウェルビーイングの大規模調査結果

また、昨年の記事ですが、ウェルビーイングに関する以下の調査結果はとても重要なので紹介しておきます。


ウェルビーイングの科学

ウェルビーイングの神経科学的な記事は少ないですが、以下の記事があります。

  • セロトニン
    セロトニンに関連する遺伝子の累積遺伝スコアが高いほど、より感情のバランスが良く、生活満足度が高く、心理的幸福感や主観的幸福感が高い。

  • オキシトシン
    オキシトシンが高まりやすい人ほど、人生満足度が高い傾向がある


ウェルビーイングと心理学概念

主観的ウェルビーイング(Subjective Well-being : SWB)や心理的ウェルビーイング(Psychological Well-being : PWB)は、さまざまな心理学概念や理論との関連が研究されています。また、ウェルビーイングとの直接的な関連性はまだ明らかになっていないものの、理論的起源や効果がウェルビーイングとよく似た概念や理論も紹介してきました。

このセクションでは、ウェルビーイングと関連する心理学的概念や理論について紹介した2024年の記事を列挙してみました。各記事の説明は、ウェルビーイングとの関連性について簡易的に記載しています。詳しい内容は、是非記事をご覧ください。

個人の内面に関する概念

  • 強み(Strength) 
    VIAの希望・熱意・感謝心・好奇心・親密性の性格的強み高いほど、人生満足度が高い

  • 知恵(Wisdom) 
    知恵は、人生の目的を一部媒介してSWBを高め、赦しを媒介してSWBやPWBを高める

  • 創造性(Creativity) 
    創造性を高めれば、SWBを促進する

  • 希望(Hope) 
    楽観性ではなく、希望がメンタル不調を抑え、SWB/PWB/社会的ウェルビーイングを高める

  • 心理的資本(Psychological Capital : PsyCap) 
    心理的資本(希望・自己効力感・レジリエンス・楽観性)は、PWBと関連している

  • 感情的知性(Emotional Intelligence : EI)
    EIは、変革的リーダーシップ・ストレス対処・組織コミットメント・仕事のパフォーマンス・SWBを向上する。

  • 謙虚さ(Humility)
    PWB(の6要素のうち人生の目的)は、謙虚さを高める。

  • 個人的相対的剥奪感(Personal Relative Deprivation : PRD) 
    個人的相対的剥奪感は、SWBと負の相関を持ち、社会的比較のSWBへの影響を媒介する

  • セルフ・コンパッション(Self-Compassion)
    セルフ・コンパッションは、自尊心の悪い効果がなく、メンタルヘルスやSWBに効く

  • 自己決定理論(Self-Determination Theory : SDT) 
    基本的心理欲求(自律性・有能感・関係性)がSWBと強く関連している


個人間や社会との関係に関する概念

  • 共感(Empathy) 
    ポジティブな共感はSWBに関連するが、ネガティブな共感は関連しない

  • 感謝(Appreciation)
    感謝の8側面(今所有に焦点、畏敬、儀式、今この瞬間、自己・社会比較、感謝の気持ち、喪失・逆境、対人関係)のうち、今所有に焦点、儀式、自己・社会比較、喪失・逆境がSWBに関連する。

  • 寛容さ(Generosity)
    World Happiness Reportの「寛容さ(=気前の良さ、Generosity)」も、日本寛容性尺度の「寛容さ(=許し、Forgiveness)」も、日本は特に低いわけでない。

  • 互恵性(Reciprocal Altruism)
    互恵性は、社会関係資本の信頼・規範チャンネルを通じて、SWBへの影響が予想される。

  • 自伝的記憶(Autobiographical memory) 
    自伝的意味記憶(セルフイメージ)がSWBやPWBに関連する

  • ノスタルジー(Nostalgia) 
    郷愁は、ポジティブ感情を促進し、ネガティブ感情を抑えるが、人生満足度には寄与しない

  • かわいさ(Baby schema) 
    ベビースキーマは、オキシトシンと関連し、向社会的行動を促進する。


個人を超越した全体感に関する概念

  • 畏敬の念(Awe) 
    畏敬の念の経験が、人生満足度やポジティブ感情を高める

  • 自己超越(Self-Transcendence)
    自己超越は、理論的にはユーダイモニア(=PWB)との関連性が予想される。

  • 徳倫理学(Virtue Ethics)
    徳倫理学は、アリストテレスのユーダイモニア(=PWB)を起源としている。

  • オーバービュー効果(Overview Effect)
    宇宙飛行士の「大気圏外から地球を眺める」経験は、驚き・畏敬の念・自然との一体感・自己超越といった感覚を伴うことが報告されている。

  • 生物多様性(Biodiversity)
    生物多様性はウェルビーイングを生み出すシステムと考えられているが、フレームワークが乱立し、一貫した合意には至っていない。

 

ウェルビーイングと社会生活

ウェルビーイングに関する研究では、私たちの社会生活や社会活動との関連性も良く研究されています。そのような研究によって、何をするとウェルビーイングになるのかが徐々に明らかになってきています。

このセクションでは、社会生活・社会活動とウェルビーイングの関連性についての記事をご紹介します。

生活

  • 睡眠
    睡眠時間が6時間未満および9時間以上の場合に、主観的幸福感は低い傾向にある。

  • 食事
    野菜果物摂取はSWBを向上する可能性があり、チョコレート摂取は気分を高揚させるが、罪悪感を感じる人もいる。家族で食事をすると子供のウェルビーイングを促進する。

  • 収入
    最新の研究では、年収が75,000ドルを超えると感情的ウェルビーイングを感じにくくなるという飽和現象は、不幸だと感じている人には起こるが、幸せだと感じている人には起こらない。


テクノロジー

  • インターネット
    世界データ20年分のマクロ分析では、インターネットの普及とウェルビーイングの間に関連性はなかった。

  • ウェアラブル端末
    血圧でポジティブ・ネガティブ感情を、心拍変動・睡眠時間・運動でストレスや不安、ポジティブ・ネガティブ感情を測定できる可能性がある。

  • 統合技術受容モデル(Unified Theory of Acceptance and Use of Technology : UTAUT)
    幸せな高齢者は、人生満足度が「パフォーマンスへの期待(テクノロジーが自分の仕事に役に立つと考える度合い)」に作用し、「行動意図(テクノロジーを利用しようという考え)」が強化される。


娯楽

  • 人とペット
    飼い主のオキシトシンレベルが高いと飼い犬の心を落ち着かせ、飼い主との交流が飼い猫のオキシトシンを増加させる。

  • 芸術鑑賞
    ライブアートはSWBとPWB(人生の意味)に正に関連し、ビジュアルアートと文学はPWB(人生の意味)と正に関連する。芸術制作は、創造的体験を媒介して、SWBに関連する。

  • スポーツ観戦
    スポーツ観戦は、帰属意識を通じて高齢者のSWB/PWBを高める。チームアイデンティフィケーションが、感情的サポートを媒介して帰属意識を高める。


環境

  • 自然とのふれあい
    週120分以上の自然とのふれあいは、主観的健康状態と主観的幸福感を高める。週120分未満では、効果が見られない。

  • サードプレイス
    サードプレイスの有無は主観的幸福感に大きな影響を与える。特に、カフェを「仲間との交流の場」「心の拠り所」として利用する人は、幸福感が高い。

  • 回復的環境
    魅了された場所よりも、自分の居場所と感じられる場所で孤独だと、リラックス・落ち着き・心地よさといった幸福感を促進する可能性がある。


活動

  • マインドフルネス
    マインドフルネスは、うつ病再発防止や慢性的不安解消に有効で、健康な人のSWBを改善する効果がある。

  • エピソード記録
    一週間を振り返り、感謝・自己肯定・目標達成・有意義なことについて、7週間エピソードを記録し続けると、欲求満足・自己慈愛・感謝の気質が増加し、自己卑下・感情抑制が減少する。

 

ウェルビーイングと職場

仕事の時間は人生のおよそ3分の1を占め、職場がウェルビーイングであることに越したことはありません。しかし、企業などの組織には、友人関係と異なり、やるべき職務・上下関係・目標・評価・制度・計画といった制約条件があります。これら制約条件が社員のウェルビーイングに影響し、また社員同士は関わらざるを得ないため、社員個人のウェルビーイングと組織のウェルビーイングを考える必要がでてきます。

このセクションでは、ウェルビーイングな職場・組織に関わる記事をご紹介します。

人間関係

  • フィードバック(Feedback)
    フィードバックするときは「相手の能力が原因」と考え、フィードバックされるときは「成功は自分のおかげ、失敗は自分以外のせい」と考える傾向にあり、フィードバックで齟齬が生まれる。

  • サーバント・リーダーシップ(Servant Leadership)
    サーバント・リーダーシップは、ウェルビーイングを媒介した方が生産性に大きく寄与する。ただし、サーバント・リーダーシップがウェルビーイングを媒介するには、職場の礼儀正しさが必要になる。

  • 関係の質と組織変革(Theory of Success)
    成功の循環・対話型組織開発・組織開発コーチングを組み合わせた組織変革モデルに基づくと、成功の循環に入るために関係の質を変えるには、構えの質(心構え、身構え)から変える必要がある。

  • 人間関係の破壊と修復(Sound House Relationship Theory)
    上司が部下に全く信用されていない(ネガティブ感情優位の感情オーバーライド状態)場合、黙示録の四騎士(批判・防衛・軽蔑・断絶)を即刻停止し、①部下の内面世界を知る、②部下の資質を称賛する、③部下に関心を持ってポジティブ・フィードバックをする、④ポジティブ優位の感情オーバーライド状態になる、⑤対立を冷静に話し合う、⑥部下の夢を聞き・自分や会社の夢を語る、⑦部下・自分・会社の夢を共有し、共通目標を見出す、といった手順が修復に必要になる。


組織風土

  • 集合的感謝(Collective Gratitude)
    集合的感謝が、性別多様性の高い職場の情緒的コミットメント(会社への愛着)を高める可能性がある。

  • 職場毒性(workplace toxic)
    職場毒性(いじめ、嫌がらせ、苦痛、不道徳、感情疲労、低同情力、等)は、従業員の心理的資本を高めることで予防できる可能性がある。

  • 多元的無知(Pluralistic ignorance)
    「集団の多くの成員が、自らは集団規範を受け入れていないにもかかわらず、他の成員のほとんどがその規範を受け入れていると信じている状態」を表す多元的無知は、職場の空気を作っている可能性がある。


職場環境

  • 職場の物理的環境
    温度・証明・騒音や設備不足によるストレスが生産性やSWBを低下させる。自然の緑が見え、自然の音が聞こえる職場は、生産性やSWBに正の影響を与える。

  • 多様性と包摂性(Diversity and Inclusion)
    最適独自性理論によれば、人間が持つ、相反する2つのニーズ「帰属意識」と「独自性」を同時に満たし、「従業員が自分自身を尊敬に値する職場の一員である」と認識する程度が包摂性である。


エンゲージメント

  • 意味のある仕事(Meaningful Work)
    意味のある仕事(=給料ためや時間つぶしのためではなく、意味があり肯定的な価値を持つ仕事)は、職務満足度・欠勤日数・人生満足度を予測する要素の一つである。

  • エンゲージメント(Engagement)
    エンゲージメントとウェルビーイングの関係は一貫した合意は形成されていないが、エンゲージメントはPWBとの関連が強い可能性が高い。

  • 職場のポジティブ心理学介入(Positive Psychological Interventions)
    エンゲージメント・職務満足度の改善には、ストレングス介入・感謝介入が望ましく、ストレスや離職率の減少には、心理資本介入・感謝介入が望ましい。


企業経営

  • 組織の徳倫理学(Organizational Virtue Ethics)
    今後の企業経営には、コンプライアンス問題防止だけでなく、永続的に発展していくために、善・徳・倫理・正しさといった概念が必要になるかもしれない。

 

まとめ

今回は、私たちが2024年(一部、2023年)に執筆した記事をカテゴリーに分けてまとめて紹介しました。こうして一覧を見てみると、心理学に近い分野だけにも関わらず、ウェルビーイングが多岐にわたって研究されていることが分かります。

2024年は、毎週投稿をやり遂げました。

2025年も、よろしくお願いします。

それでは、良いお年を!

 

執筆:山本

弊社の研究について
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/rd/thema/index.html

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